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「秘密だよ?本当は36なんだ、ごめん」
「30って言ってたよね?なんで嘘つくの?」
「…嫌われたくなくて」
「最終的に年齢詐称で嫌われる道を選んでる」
「だよな、バカみたい」
「そういうバカなところ…嫌いじゃないよ」
路上ライブで知り合った弾き語りYouTuberなんて、どこの誰かわからない。そんな素性の知れない男に私は惹かれていた。再生数もコメント数もショボい売れない歌い手。路上ライブで隣で私がギターを抱えて歌っていたら向こうから声を掛けてきた。それで、今の力関係は私が出る所に出たらコイツの人生終わり。刑務所行きの前科一犯。つまり、そーいう関係だけど疚しいことはない。パパ活をしてる訳でもないし、真面目に付き合ってる。私が女子高生というだけで世間のしがらみは何かと大変だ。
「ミナミが大学生になってさ。大学卒業したら結婚しよう」
「うーん。職歴なしはちょっと怖い。就職したいから大学卒業したらもう一年待って」
「それまでに俺は正社員にならなきゃ」
「ん?メジャーデビューは?」
「もう36歳、いい加減現実を見る時期。ミナミに逃げられないように頑張らなきゃな」
「私も頑張る。大学に行って就職してから結婚した方が有利、お姉ちゃんは育休フル活用して職場に戻りづらいみたい」
「ミナミは俺より大人、社会の事とか何でも知ってる。もっと勉強しておけば良かったなって後悔しっぱなし」
「こういうのはお姉ちゃんの愚痴の受け売りだから、私が大人な訳じゃない。でもさ、キタミが少しだけ目線を下げて私に合わせてくれて、私が少しだけ背伸びして大人になればきっと上手くいく。年の差なんてほんの少しになって全然気にならない。そうだよね?」
「ありがとう。ミナミは精神年齢が高い」
「キタミの精神年齢が高校生並みなんじゃ?」
「悪かったな!永遠の少年と言えよ、せめて」
「怒った顔もかわいい、好きだよ」
「俺も好き。幸せにするから一緒にいよう」
キタミは私を抱き寄せてキスをした。通い慣れたキタミのアパート。いつから大人になるかなんて法律や他人に決められる物じゃない。自分で決められる。愛し合って何が悪い。でも、背伸びして履いたハイヒールでは見えない死角があった。男の嘘を見抜けるほど私は大人じゃ無かった。
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