僕があなたを消した理由

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 実は。  お姉ちゃんは、たまたま朝の散歩をお父さんに頼まれた時、すれ違ったランニング中の若い男性に、一目ぼれしてしまったらしいのだ。  その人はまだ大学生ぐらいで、犬の僕が見ても、爽やかなイケメンの人だった。  で、それから三か月。  お姉ちゃんは健気にも、毎日毎日朝六時前に、僕を連れて散歩に出かけるようになった。  その間、そのイケメンさんとは声をかけるまでもなく、ただすれ違うだけなのだ。  人間には、「言葉」と言うものがあって、せめて「おはようございます」ぐらい言えばいいのに、お姉ちゃんはイケメンさんに会うと下を向いて、急いで歩いてしまう。 「お願い~秋になると、日が短くなってしまうから、今しか会えないのよ~~~」  僕がそんなことを考えている間も、お姉ちゃんの泣き言は続いている。  ふうと僕は一度ため息を吐きそうになるのをこらえて、「ワン!」と鳴いてやった。
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