僕があなたを消した理由

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 それは。  僕の心の内に留めて置く。  お別れを言いに来てくれたご主人様に、哀しい思いをさせるわけにはいかなかった。 ―儂のことは、忘れてもかまわんからな。元気で、幸せに過ごしておくれ。笹原さんのお家の方々は、お前を大切にしてくれる。  ご主人様は、そう言って僕の頭を撫で続けている。  そうして。  ご主人様の姿はだんだん見えなくなっていった。  こうなるのは、わかっている。  ご主人様は、もうこの世の人じゃなくて。  旅立つ前に、僕に会いに来てくれたのだ。  けれど。  それはわかっているけれど、僕はご主人様に逝って欲しくなかった。 ―逝かないで、ご主人様。僕を置いて、逝かないで。  でも、僕の思いは叶えられなかった。 ―元気でな、チャイ。  その言葉を遺して。  ご主人様の姿は、完全に消えたのだった。
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