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走り出した僕に声をかけていたお母さんが、叫び声を上げた。
―あなた、それは駄目よ。
不意に。
そんな「声」が、脳裏を過った。
―あなたがそんなに走っていたら、あなたのご主人が転んでしまうわ。ちゃんと、ご主人の歩くスピードに合わせないと。
「チャイ?」
はっとして我に返ると、お母さんが心配そうに僕を見ていた。
「大丈夫よ、少しよろけただけだから。びっくりさせたわね、ごめんなさい」
お母さんは、僕の頭を撫でながらそう言ってくれたけれど。
僕は、やってはいけない失態をしてしまった、と思った。
だから。僕は、落ち込んでしまった。
僕は自分のことしか考えないで、お母さんに怪我をさせるところだったのだ。
幸い、お母さんはよろけただけで済んだけれど。
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