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<前編>
「絶対、他のクラスの皆さんには秘密ですよ?」
転校して来て早々。
教室で、黒板の前で、まさに自己紹介したばかりの彼女――八戸鮎奈は言ったのだった。
真っすぐに、あたしの方を見つめて。
「私、もう既に好きな人がいます!このクラスにいる……七瀬花月さんです!」
「……ハイ?」
教室が固まった。
隣で彼女の名前を黒板に書いたばかりの先生も、美少女が転校してきたと沸いていた男子たちも、それを見てちょっとイラっとしていた女子たちも全てが凍り付いたのである。
それもそうだろう。転校早々、クラスメートに、衆人環視の前で告白するなんて前代未聞だ。
しかも、彼女は女の子で、あたしも当然、一応は、女の子なわけで。つまり、同性愛、になるわけで。
「は、はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「ちょおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「嘘だろおおおお!れ、レズちゃん!?俺達チャンスねえのおおおおおおおおおおおお!?」
「待って待って待って待っていきなり初日で情報量多すぎ、多すぎい!」
「いやああああああああああああああああああああああああああ私達の花月ちゃんが取られるうううううううううううううう!」
「やっぱりライバルだった、転校生死すべし慈悲はない」
「うっそだろおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ゆ、百合かあ……萌え」
「女の子同士の恋愛でしか得られない栄養があるので全然いいです」
「そこの百合豚はちょっと黙ろうか?ねえ?」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ありえねえええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
「なんでなんでなんで、なんでよりにもよって花月なんだよおおおおおおおおおおおおお!?こいつ選ぶくらいなら俺達男でもいいだろおおおおおおおおお!?」
「ひええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
一瞬にして、阿鼻叫喚である。あまりにもクラスメートがみんな騒ぐせいで、かえってあたしの方が冷静になってしまったくらいだ。
何人かやべえ台詞を叫んだ奴がいた気がするが、気のせいだと信じたい。とりあえず。
「……お前ら、とりあえず落ち着け」
なんであたしがこの台詞を言わないといけないのだ。
頭痛を覚えつつ、ため息をついたのだった。
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