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そう、左手の、あの紫色のミサンガを。不気味な紫色の猿のような人形が、プラプラと風に揺れている。
「これ。……ある人に、お母さんに貰ったんです。お守りだから着けていなさいって」
語る鮎奈の顔は、暗い。
「つかぬことをお伺いしますけど。……花月さんは、預言とか予知とかって信じます?」
「え、ええ?う、うーん……どうだろ。世の中にはそういうのあるかもしんねえけど、正直あんまり……」
「ですよね。それが普通だと思います。でも、世の中には……そういう不思議な力を妄信して、絶対的に正しいと思ってしまう人もいるんです。私の、両親とか」
なんとなく察してしまった。つまり彼女は。
「お前、宗教二世か?」
あたしの言葉に、彼女はこくりと頷いた。
「正確には大きな教団っていうのとは違うんですけど……そこの占い師の人の言葉を、まるっと信じちゃってるというか。その人の予言と指示が関わらなければ、二人とも優しい両親なんですけど。その妄信ぷりが正直怖くて」
「鮎奈は信じてないのか」
「……微妙なところです。確かに、当たってる時もあるんです。だから、本当なのかもしれないと思ってて。……その人が、半年後にまた辞令が出て、お父さんが転勤することになるって言ってて。万が一予言が外れても、お父さん自分で転勤を言い申し出るんだろうなと思ってて。だから……」
まさか、そんな事情があったとは。それで「自分は半年後に転校するのが確定している」ような物言いをしていたらしい。
「こういう両親が、皆さんにとって毛嫌いされる類いであること、迷惑かけるということはわかっています。だから、あまり皆さんと仲良くするのもよくないのはわかってるんですけど」
でも、と鮎奈は続ける。
「大好きな人がいる学校の、大好きな人と同じクラスだなんて、運命感じちゃうじゃないですか。だから、ちょっと思い切ったことをしてしまいました。あんな告白をすれば、嫌でも花月さんに覚えて貰えるだろうなって。どうせ想いは通じない、通じても別れることになるなら、と」
「それがわからねえ。あたし、お前とは初対面だろ?なんで……」
「覚えてませんか」
彼女は顔を上げて、まっすぐあたしの方を見た。潤んだ瞳に、あたしの困惑したような顔が映っている。
「幼稚園の時、デブスって虐められてた私を助けてくれたでしょ……“花月ちゃん”は」
「!」
デブス。幼稚園。いじめられていた。
そのキーワードに、あたしは目を見開く。それって、まさか。
「……あーちゃん!?」
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