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八戸鮎奈。
長い黒髪さらさらヘアーに、ピンクのヘアバンドがよく似合う、いかにもお嬢様といった雰囲気の女の子だ。喋り方も常に丁寧語だし、声も鈴が鳴るように可愛らしい。真っ白な肌、薄紅色に染まった唇、大きくてぱっちりした目は驚くほど睫毛が長い。
ようは、とてつもなく美少女である。白雪姫、大和撫子、そんな言葉が似あうくらいには。
どこかでアイドルやってます、と言われても全然驚かないだろう。転校初日なのに、まったく物怖じしている様子がない。人前でしゃべること、初めての人と話すこと、そういったことに思い切り慣れている印象だった。いろんな意味で、あたしとは対極の存在だと思われる。
だからこそ、ホームルーム開始早々にあんなとんでもない告白ができたんだろうが。
「というわけで花月、教えて頂戴な」
一時間目が終わった休み時間早々。
あたしはクラスメートみんなに囲まれることになってしまったのだった。特に、今目の前にいて、あたしの机をドンっと叩いた少女――親友の、一之宮ゆま。小柄で、中学生になってなおツインテールが似合う童顔の少女は、今ものすごい目であたしを睨んでいるのだった。
「我が数原中学校二年二組随一の王子様こと、七瀬花月サン!一体いつの間にあんな美少女を口説いてたっていうのよ!?お母さんは認めませんよ!!」
「誰がお母さんじゃ、誰が!つか、あたしは王子様なんかになったつもりはねえよ!?」
反射的に、あたしはゆまの額をひっぱたいていたのだった。ぺっちーん、とこれまたいい音がする。彼女は大袈裟に額を抑えて“暴力反対!”と叫んでいるがスルーだ。
ちらり、とあたしを取り囲むクラスメートたちの向こうを見る。同じく、鮎奈の方もクラスメート達に囲まれている様子だった。あっちは男子が多いようだが。
――まあ、あこがれのお嬢様キャラが転校してきたと思って沸き立ってたら、いきなり同性に告白すんだもんなあ。あいつら的にも、どういうこっちゃとツッコミにいきたくなるのはわかるが。
鮎奈はニコニコと笑顔であしらっている様子だった。やはり彼女、只者ではあるまい。
「……つか、マジで口説いたとかねえから」
あたしは手をひらひらと振って主張した。
「そもそも、あたしもあの子と出会ったの、さっきが初めてだからな?今日転校生が来るなんてことも知らなかったんだぜ?一体どうやって口説くんだっつの」
「花月いいい、おでこ、おでこが痛いいいいー」
「ゆまはうっさい、静かにしててくれ話が進まん。……正直、初対面で同性に告白されて、一番戸惑ってんのはあたしだっつの」
何やら誤解されている様子なので、あたしは丁寧に弁解する。
本当に、口説いたなんてことはないのだ。完全に初対面。あんな美少女、見たことがあったら忘れるはずがないというのに。
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