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「本当に覚えないのか?」
ゆまの後ろからひょっこり顔を出したのは男子の十条祐輔。眼鏡をくいっと押し上げて、あたしの顔と向こうにいる鮎奈の顔を見比べている。
「僕等は知ってるんだ。花月、君がこの中学校に入学してからというものの、謎の記録を打ち立てているということを。女性に告白されたこと、初めてじゃないだろう?それどころか、今回ので十五人目だ。ちなみに男子に告白されたのは五人、三分の一というのが君らしいと言えば君らしい」
「うっさい!あたしだって謎だと思ってるんだよ!!」
確かに。
あたしは何故か、女子の方にモテる。どうにも、一般的な“イケメン顔”というものであるらしい。そのくせ、陸上部(砲丸投げとかもやるのでけっこうごっつい体型の自覚はある)で、身長も170cmある。ショートカットなので、制服着ていないと男子に間違われることも珍しくない(つまり、胸はまな板)のは確かなことだが。
「言っておくけど、あたし同性に興味あるタイプじゃねえからな?これでも一応ストレートなつもりなわけ!推しはSnow Manの佐久間くんだし!」
「ああうん、花月って明るくて空気読める系男子好きだもんね……ってそういうことじゃなあい!」
がばり、ととなりで顔を上げるゆま。無事、ゾンビから復活を果たしたらしい。
「現実問題として、花月は女の子にもてる系女子なのよ。それはわかってるでしょ?男にもモテなくはないけど圧倒的に女子にモテる!」
「解せぬ」
「そんなわけだから、花月に心当たりなくても、どっかで惚れられたとか可能性としてはありうるわけなのよ!ねえ、心当たり本当にないわけ?最近女の子を助けたとか、痴漢を撃退したとかさあ」
「ええ……?」
そんなこと言われても、とあたしは明後日の方を見る。記憶をもやもやもや、と記憶をたどる。
この体格で、腕力もあって、それなりに喧嘩が強い自負はある。そのせいか、困っている人を見かけるとなんとなく手を貸してしまうことが多いのは否定しない。
確かに、昨日は痴漢を一人ぶん投げた。隣の席に座っている女性のお尻を後ろから触っていることに気付いてしまったからである。天井近くまでぶん投げてしまったので、正直ブッコロしてしまったんじゃないかと一瞬心配になったほどだ。
それから一昨日は、駅の階段で重たいベビーカーを抱えて困っていた(多分エレベーターの場所がわからなかったのだと思われる)夫婦を助けた。あのくらいの赤ちゃんが乗ったベビーカーなら、あたし一人でも持ち上げられる程度だったからだ。
あとは一週間くらい前に、カツアゲされていた同じ学校の男の子を一人助けたような気がする。うっかり男子高校生数名をボコボコにしてしまったので、ちょっとした騒ぎになってしまった。
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