<中編>

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 ***  そして、放課後。 「お前らのせいでなあ、放課後まで八戸さんを取り逃がしただろがい!」  鮎奈は他の生徒たちに誘導されて、部活動見学へ行ってしまった。花月が彼女を追求していた男子たちに詰め寄ると、彼等彼女らは“だってさあ”と唇を尖らせる。 「鮎奈たん可愛いし」 「たん呼びすんな!」 「八戸さん話が上手いし、なんかもう上手に転がされてる感あるというか」 「それはまあ、そういうキャラなのかもだけど」 「だから段々こう、大人のお姉様に転がされて踏まれる快感を教え込まれている気持になってくるというか」 「落ち着け!?」  話をまとめると。どうやら彼女は“どうしてあたしを好きになったのか”とか“どこであたしと出会ったのか”などの質問を綺麗に受け流してしまっているらしい。のらりくらり躱されて、本当のことが結局わからないままだという。 「お前らなあああああ!話をするならもう少しうまくやれよおおおお!結局情報がなんもねえじゃねえかああああ、放課後逃げられるしいいいいいいいいい!」 「ぐえええええええ首、首閉まってる花月い、ぐるじいいいい!」  男子の一人の首ねっこを掴んでがっくんがっくん揺さぶってやる。なんか白目むいて魂出てる気がするが、まあ気のせいということにしよう。この程度では死なないはずだ、多分だけど。 「か、花月落ち着け、な?な?き、気になったこと言ってたんだ、それ聞けよ、な!」  それを見て、別の男子が慌てて止めに入ってきた。 「彼女、花月のことが好きだと言ってただろ?告白するってことは、普通は付き合いたいってことのはずだ。それなのに、あの場で花月の返事を求める様子が一切なかっただろう?なんか変だと思わないか?」 「ああ、確かに」 『私、もう既に好きな人がいます!このクラスにいる……七瀬花月(ななせかづき)さんです!」  既に好きな人がいます、とは言ったが。  付き合ってください、とは言われていない。花月自身完全に固まってしまって、そう問われたところですぐに答えられたかは怪しいところであるが。 「そ、それでな。付き合いたいと思ってないのか?みたいなことをやんわり尋ねたんだよ。そしたら」 『半年以内に、好きか嫌いか、お返事貰えればそれでいいなって』 「だとよ。半年だぜ、半年。猶予長過ぎね?しかも微妙に、俺の問に答えてない気がするというか」 「……そうだな。なんか、変だな」  どうして半年なんだろう、と首を傾げるあたし。すると、はいはいはい、とにょっきり顔を出してきた人物がいた。ゆまだ。 「さっきその、八戸さんから情報を入手したんだけどもさ!彼女、親が通信会社の営業マンやってるらしーの。今回の引っ越しもそのせいなんですって」 「ああ、転勤族か。大変そうだな」 「で、小さな頃はこの町に住んでたこともあるんですって。ひょっとして、その頃に彼女と接点があったとか、そういうこともあるんじゃないかしら。幼い頃好きだった子と、中学生になってから再会するなんてロマンチックでしょう?」 「え、えええ……?」  確かに、まだその方が可能性としてはありそうだ。ただ、いくら記憶を辿っても、“はちのへあゆな”なんて変わった名前の女の子に心当たりはない。  そもそも、幼い頃にしたってあんな美少女、一緒に遊んだりなんたりしたならやっぱり記憶に残っていそうなものだが。 ――子供の頃なあ。その言い方からして、幼稚園とか、小学生低学年とか?それくらいなんだろうけど……。  一体いつの話なのだろう。時間軸が、少々ぼやっとしすぎている。 「八戸さん、運動部中心に見学するって言ってたぜ。特に球技に興味があるって」  男子の一人がそんな情報をくれた。 「とりあえず、探しにいってみたらどうだ?お前も陸上部員として、可能なら部活勧誘はしたいだろ?球技じゃないけど、運動部ならチャンスはあるかもしれないぜ」
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