投げる

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 タナカさんが押し黙る。おれが放ったボールは今、彼女の足もとに転がっている。拾って投げて、また拾って投げて。それは、おれが子どもの頃にやりたかった雪合戦と同じではないだろうか。 「──わたし、万引きって許せないんですよ。親がそういう人だったから……」  そういう人とは、万引きをするような親という意味か、あるいは、万引きを許さない正義感の強い親という意味か。足もとに転がった雪玉(ボール)を眺めながら、おれはじっくりと考える。  無邪気さはないけれど、おれは今、タナカさんと見えない雪玉を投げあっているのだ。これはこれで悪くない。  雪はまだ降り続いている。
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