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 雪が降りだした。ああ、最悪だ。  こんな日は客足が遠退いてしまう。ガラスの向こう、ちらほらと落下してくる白い雪をおれは恨みがましく見つめた。  令和のこの時代、迂闊な発言はすぐになんとかハラスメントだと糾弾され、会話もままならない。特に平成生まれのおじさんとしては、それなりにアップデートしているつもりでも、些細なことで若い子に嫌な顔をされるのが常だ。  だから、結局は『余計なことは話さない』というスタンスになる。逆に言えば『必要最低限のことしか話さない』ということで、それはこのコンビニ勤務においてとてつもない苦行である。  今おれの隣には、先週入ったばかりの新人アルバイトが立っている。彼女の名前は──タナカさん。いや、正しくは大橋(おおはし)和紗(かずさ)さんなのだけど、昨今では名札に本名を記すのは個人情報の流出と同じとされていて、特に不特定多数の客がやってくるコンビニでは良しとされない。店員に一目惚れしてストーカーになるケースも多いし。
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