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魚へんに弱いと書いて鰯。
鰯が群れるのは、捕食者に対して自分たちを強く大きな存在に見せることで身を守るためだ。
「ねぇ、見てあれ。急に正気になった感じ?」
「あれが恥ずかしい恰好だって気づいたんだったらウケるね」
アイはスマホの画面に映る、無難な姿の自分を見つめる。
個性なんてもうどこにもない。人々の群れの中に溶け込むために、個性は消してしまった。
(人が個性を消して群れるのもきっと、弱い自分を守るため。だって――)
群れから外れているだけで、後ろ指を指されてしまう。それは時に心を傷つけることにもなるのだ。
「ねぇ、隣座っていい?…ですか?」
大学に入学して半年。初めて話しかけられたとアイは驚く。
顔を上げると、眼鏡をかけた女子がもじもじしている。
「いいよ」
アイが答えると、彼女はパッと顔を輝かせ、そそくさとアイの隣に座った。
「私、ユウ。実はずっと、アイさんに話しかけてみたかったんだ」
END
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