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魚へんに弱いと書いて鰯。
鰯が群れるのは、捕食者に対して自分たちを強く大きな存在に見せることで身を守るためだ。
(それなら、人は何のために群れるんだろう)
***
「あー、ねぇ見てあれ。例の人じゃない」
「ホントだ、噂通りダサっ」
クスクスクス。大学の講義室の隅の席に座っていると、後ろからバカにしたような笑い声が聞こえてくる。
「髪色やばくない?何あれヤンキーアピール?」
「ダサすぎでしょ、あんなんでよく外出れるよね」
アイは気に留めていない風に装い、俯いたまま静かにスマホを弄る。
暗めのスマホの画面に、自身の傷ついた表情が映り、目を逸らした。
男性もののビッグパーカーに細身の柄デニム。原色の青メッシュが入った金髪に、厚底の黒いスニーカー。
アイが好む服装は、いつも周りから否定的に見られた。別に心が男性という訳ではないし、恋愛対象も異性だが、昔から服装だけは男性のものが好きだった。
「もっと女らしい恰好しろよな。あれはないわ、女じゃない」
「言ってやるなよ、戸籍上は女だろ。顔隠せばイケるって」
女性の声に続いて、今度は男性の声がアイの陰口を話し始める。「野暮ったすぎるだろ」と言う声が離れていくのと同時に、講義室のドアが開いて、クスクスという笑い声は部屋の外へ出て行った。
高校を卒業して大学に入れば、校則はないから全てが自由だと思っていた。実際に校則はないが、周囲の学生は皆、示し合わせたように同じような恰好をしていた。
女子はゆったりしたニットにワイドパンツとヒールのないパンプスを合わせているか、フリルのついたシャツにチェック柄のミニスカートを合わせてレースソックスを履いているかのどちらかがほとんどだ。
男子はパーカーにデニムか、シャツにデニムのどちらか。
そしていずれも髪は染めていても茶髪程度で、たまに講義室の隅で騒ぐヤンキー風の男子が金髪にしている程度のようだった。
アイの格好はそんな彼らと全く異なるため、「奇抜だ」「派手だ」と学生からジロジロと見られ、陰口を叩かれた。
***
高校の頃の、まるで羊の群れのような集団が嫌いだった。
同じ制服、同じ髪型、同じ髪色、学校指定のカバンも皆お揃い。違う恰好をしている生徒は誰一人いなかった。
自分は確かにそこにいるのに、そこにいないような錯覚に陥って気持ちが悪かった。
校則がない大学に入れば、自由に自分を表現していけるのだと、アイは信じていた。
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