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「お姉ちゃん」 「え?」  振り返った結亜の視線の先に、たった今すれ違ったばかりの女性がこちらを向いて立っていた。  顔の下半分はマスクに覆われ、その表情を窺い知ることはできない。僅かに覗いた二つの目だけが、結亜を捉えて光っていた。  辺りには誰もいない。 「私?」  首を傾げる結亜に、女性は大きく頷いた。 「会いたかったよ。お姉ちゃん」 「人違いじゃ……」  怪訝そうに見つめる結亜の前で、女性は帽子とマスクを取った。拍子に、長い髪がばさりと落ちる。 「……っ」  そこには、結亜に瓜二つの顔があった。  左の頬に、治りかけのような痣がある。長めの前髪の隙間から、白いガーゼがちらりと見えた。 「あたしは未亜(みあ)。あなたの双子の妹」 「双子の……妹?」 「聞いてない? あたしたちのこと」 「何も……」  震える声で、結亜は何度も首を振った。 「そっか」  ふっと目を伏せると、「ちょっと話せない?」未亜は右手の親指を後ろの方にくいっと立てた。  公園に沿った細い車道に、黒い軽自動車が停まっている。目で結亜を促すと、未亜はふいっと背を向け軽自動車へと歩を進めた。  頭の中で、警鐘が鳴り響く。  行ってはいけないと思いつつも、知らぬ存ぜぬで冷たく突き放すわけにはいかない。  なぜなら、その未亜と名乗る女性は、自分と同じ顔をしているのだから……。  まるで磁石に引き寄せられるかのように、結亜は恐る恐る、その助手席に乗り込んだ。
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