25人が本棚に入れています
本棚に追加
「お姉ちゃん」
「え?」
振り返った結亜の視線の先に、たった今すれ違ったばかりの女性がこちらを向いて立っていた。
顔の下半分はマスクに覆われ、その表情を窺い知ることはできない。僅かに覗いた二つの目だけが、結亜を捉えて光っていた。
辺りには誰もいない。
「私?」
首を傾げる結亜に、女性は大きく頷いた。
「会いたかったよ。お姉ちゃん」
「人違いじゃ……」
怪訝そうに見つめる結亜の前で、女性は帽子とマスクを取った。拍子に、長い髪がばさりと落ちる。
「……っ」
そこには、結亜に瓜二つの顔があった。
左の頬に、治りかけのような痣がある。長めの前髪の隙間から、白いガーゼがちらりと見えた。
「あたしは未亜。あなたの双子の妹」
「双子の……妹?」
「聞いてない? あたしたちのこと」
「何も……」
震える声で、結亜は何度も首を振った。
「そっか」
ふっと目を伏せると、「ちょっと話せない?」未亜は右手の親指を後ろの方にくいっと立てた。
公園に沿った細い車道に、黒い軽自動車が停まっている。目で結亜を促すと、未亜はふいっと背を向け軽自動車へと歩を進めた。
頭の中で、警鐘が鳴り響く。
行ってはいけないと思いつつも、知らぬ存ぜぬで冷たく突き放すわけにはいかない。
なぜなら、その未亜と名乗る女性は、自分と同じ顔をしているのだから……。
まるで磁石に引き寄せられるかのように、結亜は恐る恐る、その助手席に乗り込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!