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「合格おめでとう結亜」
シャンパングラスを片手に、正孝が微笑む。
「ありがとう、パパ」
ジンジャーエールを少し掲げ、結亜は満面の笑みを浮かべた。
今日は、志望大学の合格発表日だった。
両親共に教師という教育一家で育った結亜は、誰に言われた訳でもないが、自然と教師を目指すようになっていた。
「四月から寂しくなるな」
東京の大学へ進学する結亜は、必然的に親元を離れて暮らすことになる。
眉をハの字に歪め、正孝は僅かに涙ぐんだ。
「大袈裟ね。今生の別れじゃあるまいし」
サラダを取り分けながら、忍が呆れたように笑った。
「ほんと、大袈裟」
ねぇ、と結亜が、顔を歪めて忍を見やる。
「ちょくちょく帰って来てよね。ママ一人じゃ、この人のお守りは大変だから」
「はぁい」
結亜と忍は顔を見合わせると、ぷっと同時に吹き出した。
「いたっ」
突然、結亜が頭を抑えて顔をしかめる。
「どうした?」
正孝と忍が、心配そうに結亜を見た。
「なんかちょっと、頭が」
「頭?」
大丈夫? と忍が結亜を覗き込む
「うん。あれ?」
頭を上げると、「治ったみたい」キョトンとした顔で結亜が答えた。
「またいつもの?」
忍が訊く。
結亜は幼い頃から、こんな風に原因不明の痛みを訴えることがあった。成長するにつれ回数は減ってきてはいるが、未だに時々あるようだ。
医者に診せても特に異常は見当たらず、首を捻るばかりだった。
「もう大丈夫。何ともない」
「ほんとに?」
「それより早く食べよ。もうお腹ぺこぺこ」
お腹に手を当て、結亜が大袈裟に顔をしかめる。
「あ、ああ。そうだな」
気を取り直し、正孝が答えた。
「そうね。冷めないうちに食べましょ」
忍も居住まいを正す。
「いっただっきまぁす!」
元気いっぱいな結亜の姿に、正孝と忍もホッと胸を撫で下ろした。
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