シンゴ

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シンゴ

 すでに面会時間は過ぎていた。  ボクたちが面会室を出ると、コワモテの鰐口警部補が待ち受けていた。 「よォ、相変わらず派手なカッコだなァ。横浜アリーナでのライブの帰りか。ビジュアル系弁護士さんよォ」  鰐口警部補はジョーク交じりにシンゴへ挨拶をしてきた。 「まさか。売れないバンドなんでバイトで、国選弁護人をやってるんですよ」  シンゴも会釈して応えた。 「フフゥン、ご苦労さんだな。たいした金になんかならないだろう。国選弁護人なんか!」 「ええェ、まァねえェ」  シンゴはうなずいた。  鰐口警部補の言う通りだ。  国選弁護人の報酬は税金で賄われる。  面会を一回すると報酬はおよそ二万円だ。 「『笑う宇宙人』の弁護をビジュアル系が弁護するんだって。タブロイド紙の見出しには事欠かないなァ。ガッハッハハッ」  鰐口警部補は少し嘲笑うように高笑いした。 「どうですかね。鰐口警部補(ワニさん)が担当してるんですか。彼のことを?」  親指で接見室の方を差した。 「ああァ、未だに身元不明の『笑う宇宙人』だよ。あの宇宙から来たは」 「あのォ、どうも彼が言うには『ベガ星人』だそうです」  ボクが口を挟んだ。 「はァ『ベガ星人』だとォ。おいおい、どこの特撮ヒーロー出身だよ。ッたくゥッ?」  鰐口警部補も頭を抱えてしまいそうだ。 「警察でも身元がわからないと言うことは、やっぱり前科がないと言うことですか」  シンゴが鰐口警部補に訊いた。 「ああァまァな。指紋からも前科者リストにはヒットしなかった。DNAも任意の提出は拒否したしねェ。ようやくこの前、食事の時に使った…。いやァ今のは聞かなかった事にしてくれ」  鰐口警部補は言葉を濁した。 「そうですねえェ。任意の提出を拒否した容疑者からDNAサンプルを許可なく採取する事は違法ですからね」 「チィッわかってるよ。そんな事は」 「カレが逮捕されたは連続暴漢魔の『ブラッディフール』の三件目の事件ですよね」 「ああァそうだ。言っとくが現行犯逮捕だからな。罪名は公務執行妨害だ!」 「ええェ、ですけどカレの供述では被害者の傷口を癒やしていただけと言うんですよ。蘇生させようとして!」 「おいおい、異世界転生アニメじゃないんだ。回復魔法で蘇生なんか出来るモノか!」  鰐口警部補は喚き立てた。 「ええェ、ですがカレの着用していた服には返り血がツイていたんでしょうか?」 「ンうゥッ、いやァ返り血はついてなかったが」  鰐口警部補は視線を逸らし曖昧に応えた。 「それに凶器だってまだ見つかってないんでしょ?」 「あッ、ああァん、確かに凶器もまだだ」  鰐口警部補は不満そうに首を横に振った。 「だったらカレの言う通り、刺された被害者を救護していたんじゃないですか?」  シンゴの言葉に鰐口警部補も苦笑した。
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