ビジュアル系弁護士

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ビジュアル系弁護士

「おいおい敵に塩を送れって言うのか。ビジュアル系弁護士さんよォ」  鰐口警部補はシンゴを睨んだ。 「いやァ、敵じゃないですよ。ボクは警察と同じで真実を追求してるだけですから!」 「ふぅん真実ねえェ。モノは言いようだな。人権派の弁護士は、どんな凶悪な悪魔でも言葉巧みに無罪に持っていくんだろう」  鰐口警部補はそっぽを向き面白くなさそうだ。 「フフゥン、悪魔じゃなくって、宇宙人だけどねえェ」  傍らからマリアが茶化した。 「はァ宇宙人?」  あからさまに鰐口警部補は嫌な顔をした。 「いやァ警察と弁護士では真実にたどり着くアプローチが違うだけですよ」  シンゴは苦笑いを浮かべ言い訳をした。 「フフゥン、アプローチねえェ。言うねえェ」  鰐口警部補も肩をすくめ苦笑した。 「ええェ、鳴かぬなら裁いてくれようホトトギス。天に代わってすべての悪事を!」  シンゴはまるで歌舞伎役者のように見得を切った。 「フフ、まァあとでこっそり教えてやるよ。ここじゃぁ、ちょっとなァ。ビジュアル系弁護士にはいろいろと借りがあるんでね」  鰐口警部補も仕方なさそうだ。 「頼みますよ。さァどうぞ、喫煙スペースへ行ってください」  シンゴは鰐口警部補へ勧めた。 「ンうゥ、ああァ……」 「あ、その前にひとつだけ良いですか?」  シンゴは呼び止めた。 「ンううゥ、なんだ?」  鰐口警部補は憮然として振り返った。 「メサイアゲームって知ってますか?」 「はァ、メサイア……。さァな。アニメか、ゲームかなにかだろう」   「はァそうですか。どうも」  シンゴは苦笑いした。  どうやら警部補の鰐口も知らないようだ。  その後、鰐口警部補からの連絡で深夜のパトロールをしていたのは所轄の交番に勤務する警察官だった事がわかった。  ラインで巡査の名前を伝えてきた。  名前は『大野』と言う巡査らしい。  ボクたちはすぐにその巡査の勤務する横浜市金沢区の駅前交番へ訪ねる事にした。  ボクとシンゴ、織田マリアの三人だ。  ここからならさほど遠くない。  だが途中、シンゴはしきりに背後を気にした。 「ン、どうかしたの。シンゴ?」  マリアが訊くとシンゴは苦笑して応えた。 「ああァ、ちょっとボクの追っかけかなァ?」  シンゴも少し嬉しそうだ。  背後に見知らぬ女子の姿があった。可愛らしい美少女だ。  えんじ色のベレー帽をかぶっていた。  私服なので年齢は良くわからないが、女子高生か女子大生くらいだろう。 「なによ。可愛い女の子だからってキョロキョロとよそ見するなよ!」  マリアはヤキモチを焼いた。 「ハッハハッ」  シンゴは困惑気味に苦笑した。  仕方ないだろう。なにしろシンゴはビジュアル系ミュージシャンだ。  若い女の子からモテるのは当然だ。  ようやく(くだん)の交番に到着した。  交番のドアを開けた。 「こんにちは。大野さんっておまわりさん居ますか?」  マリアが率先して訊いた。 「あ、ボクですね。たぶん、大野ではないですけど」  すぐに若い警察官が立ち上がった。優しそうな笑顔で対応した。   「え、なによ。じゃァ大野じゃなくって何なの?」  不思議そうにマリアがたずねた。 「ハイ、ボクの名前はです」 「えェ、マジで、じゃァさんなの?」  マリアもボクたちも少し驚いた。
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