犬野おまわりさん

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犬野おまわりさん

「ハッハハッ、そうですねえェ。よく昔からバカにされますよ」  彼は屈託なく笑って応えた。  まさに犬野おまわりさんと言った感じだ。  笑顔がよく似合う優しそうな好青年と言えるだろう。  ボクたちの訪問にも真面目に応えてくれた。 「どうも、ボクは先ほど連絡したビジュアル系弁護士のシンゴと申します」  まずシンゴが頭を下げて挨拶をした。  一応、胸にはひまわりのバッチがしてあった。弁護士バッチだ。 「はァ、ビジュアル系弁護士?」  彼も目を丸くした。  シンゴを目の当たりにすれば、誰でも面食らうだろう。  ビジュアル系ミュージシャンの弁護士などそうそうお目にかかる事はない。    いや、そうそうどころではないだろう。  世界にただひとりなのだから、彼以外には存在しないことになる。 「私は、アイドル兼ミステリー作家にして美少女探偵の織田マリアよ」  さらにマリアがクルクルとダンスを舞いながら自己紹介をした。  まるでアニメから飛び出して来たような美少女だ。   「え、織田マリ?」  警察官の犬野は不思議そうに肩をすくめた。 「お黙り。織田マリアよ。マリアとお呼びなさい!」  上から目線で命じた。 「はァ、どうもすみません。マリアさん」  すっかり犬野巡査も意気消沈だ。 「ボクは県警の明智正義(あけちマサヨシ)です。よろしく」  いちおう警察手帳を提示した。 「ハッハイ、よろしくお願いします」 「ええッと、さっそくですが、先週の金曜日の真夜中、パトロールに出た際、警察官の犬野(あなた)がブラッディ・愚者(フール)を公務執行妨害で捕まえたそうですねえェ」  シンゴが事件の詳細を(たず)ねた。 「ええェ、まァそうですね。たまたまですけど」   「その時の詳しい経緯を伺いたいのですが」 「詳しくと言われても、今年に入ってウィークエンドの深夜に連続して起きているじゃないですか。ブラッディ・フール事件は」 「ええェ、やはりウィークエンドにブラッディ・フールを警戒していたんですか?」 「そりゃァ、地元の横浜や川崎、湘南、横須賀で立て続けですからねえェ」  管内で卑劣な婦女暴行殺人事件が連続して起きていた。  警察としても威信にかけて、犯人を捕まえたいところだろう。  彼の話によると深夜のパトロールを強化した矢先のことだった。
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