赤い月の夜

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赤い月の夜

 彼の話によると深夜のパトロールを強化した矢先のことだった。  その日は昼間、三十度に迫るほど汗ばむ陽気だった。しかし夜になると少し肌寒いくらいだ。  横浜の夜の街を色とりどりのイルミネーションが飾っていた。    夜空には赤い月が照っていた。  不気味で禍々(まがまが)しい。  紅い月夜は残虐な犯罪が起こると言われていた。  ネットで拡散した都市伝説のひとつかもしれない。  これまでのブラッディ・フールの犯行はウィークエンドの深夜、人通りのない公園で女性の背後から接近しスタンガンで襲い、失神させ拉致するという荒っぽい手口だった。  そして失神した女性を多目的トイレへ連れ込んで事を行っていた。  犬野おまわりさんも昼間から管轄区域の公園を回って、犯行が可能な多目的トイレを下見していた。  まるでこれでは自身が犯罪者になったような気分だ。  優秀なプロファイラーは犯罪者と紙一重かもしれない。  妄想するか、実行するかの差だろう。  深夜になり犬野巡査は白バイで各所をパトロールしていた。  駐車スペースへ停車させ公園へ入るとザワザワと胸騒ぎがしてきた。 『……!』  昼間とは違い嫌な予感がした。 『ゴックン』固唾を飲んで、ゆっくり見回した。  多目的トイレへ近づくと何やら聞き慣れない呪文が唱えられていた。  多目的トイレの中からだ。 『☓☓☓☓☓☓☓☓……』かすかに漏れて聴こえてきた。  まったく聞いたことのない言語だ。 『まさか』ブラッディ・フールなのだろうか。  恐怖と緊張で足が竦んだ。
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