紅い月の夜

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紅い月の夜

 恐怖と緊張で足がすくんだ。 『ゴックン』ヤケに咽喉(ノド)が渇いた。  けれどもここで臆するわけにはいかない。  犬野巡査は用心のため警棒を手にしてドアを手荒くノックした。  重たい鉄製のドアだ。 『おォい、誰か、いるのかァ?』  こんな真夜中に身体障害者が用を足している可能性は少ない。  一瞬、沈黙したものの、また呪文が唱えられた。  中の様子は変わらない。 『☓☓☓☓☓☓……』  相変わらず、ナゾの呪文のような言葉が多目的トイレな漏れてきた。  犬野は思い切って重い鉄製のドアに手を掛け一気に開けた。 『ガラガラガラガラッ』鉄製の重いドアが開いた。  カギは掛かっていない。 『ううゥ……!』思わずうめき声を上げた。  多目的トイレ内の床に女性が血まみれで横たわっていた。 『☓☓☓☓☓☓☓……』  若い男性が倒れている女性の胸元を押さえ呪文を唱えていた。    ムッとする異様な臭いが漂っていた。  思わず吐き気がするような生臭いニオいだ。   『何をしてるんだ!』  とっさに警察官の犬野が怒鳴って男性を引き離そうとした。 『うるさい。邪魔をするな』  若い男性は警察官の手を強引に振り払った。 『ぬウゥ、やめろォーッ。お前がブラッディ愚者(フール)かァッ!』  なおも警察官の犬野は後ろからチョークスリーパー気味に若い男性の首を絞め、女性から引き離そうとした。
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