ベガ星人なんですよ

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ベガ星人なんですよ

「フフゥン、ボクは宇宙人なんですよ」  美少年は椅子に腰掛けたままユラユラと左右に揺れながら微笑んだ。 「えェッ、なんだってェ?」  なにを言ってるんだろう。いったい。  バカなことを言うなと喚き散らしたい気分だ。  一瞬、弁護側の三人は眉をひそめした。  けれどもすぐさま紅一点の織田マリアが席を立ち上がった。 「お黙り。おバカさんなの。ボクちゃん?」  これ以上は黙っていられず、カッとして怒鳴りつけたみたいだ。  マリアの甲高いアニメ声が普段は静かな面会室に響きわたった。 「……」即刻、刑務官がこちらを睨んだ。  アクリル板で仕切られているので掴み合いになることはないだろう。  けれども当然ながら接見中、喧嘩をすればこれから先は接見禁止になるに違いない。 「フフゥン、おかしいって笑うかもしれませんが、ボクは宇宙人の『ベガ星人』なんですよ」  なおも美少年は(おど)けたように肩をすくめ笑った。  視線はシンゴへ向けたままだ。完全に織田マリアやボクのことなど無視していた。 「ううゥン」シンゴは眉をひそめ、かすかに呻いた。 「あのねェ、ボクちゃん。ぶっちゃけ、いつまで、『宇宙人』だとかフカシてるんだよ。ここは銀河連邦の宇宙警察じゃねぇんだ。神奈川県警なんだぞ。わかってんのか!」  織田マリアは一気にまくし立てた。  まるでヤンキーのようにガラの悪い口調だ。  目の前にアクリル板がなければ、殴りかかっていくような勢いだろう。  アイドルみたいに可愛らしいルックスだが見かけによらず気が短いのがネックだ。  このままアクリル板を突き破って、美少年の元へ飛びかかって行きそうだ。 『ゴッホン』  被疑者側に控えている刑務官がワザとらしく咳払いをし立ち上がりかけた。  今にもイエローカードが出そうだ。  いや、一発レッドもあり得るだろう。 「どうも…、申し訳ありません。大きな声を出して。これから気をつけます」  シンゴは先回りし刑務官へ謝罪をした。 「ハッハハッ、マリアちゃん。少し落ち着いて」  ボクもハラハラして気が気ではない。  刑事のボクがいて接見禁止になったら目も当てられない。 「さァ、マリアも謝れよ」  すぐにシンゴは隣りの織田マリアの後頭部を押さえ、無理やり頭を下げさせた。 「もう、なんだよォ。触るな」  しかし織田マリアはムッとしてシンゴの手を振り払った。困ったものだ。  これ以上、問題を起こせば接見禁止になりかねない。ここは大人しくしていた方が無難だ。 「まァまァ、接見中だからもう少しおとなしくしようか」  すぐさまボクは懸命に美少女をなだめた。  何しろ彼女の名前は織田マリアだ。  あだ名はもちろん『オダマリ』。  まさに名は体を現わすようなあだ名だ。
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