ビジュアル系弁護士

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ビジュアル系弁護士

 取り込み中なので、手っ取り早く今の状況を説明したい。  ここは神奈川県警署内にある被疑者と接見するための面会室だ。  被疑者はアクリル板の向こうにおとなしく座っていた。  だが彼は面会室へ入ってきた時からずっと微笑んでいた。  まさに『笑う宇宙人』といったところだろう。  しかもふざけているのか、腰掛けた途端、ユラユラと左右に身体を揺れていた。  明らかにこちらを挑発しているような不真面目な態度だ。  弁護側のこちらにはボクを含め、男女三人が対面していた。  ボクの名前は明智正義(あけちマサヨシ)。通称、ジャスティン。マリアは略してジャスと呼んでいた。  正義(マサヨシ)だけに幼馴染みのマリアが名づけたニックネームだ。  けれどもいつまで経っても馴れない。不意に、人前でジャスティンと呼ばれるとかなり恥ずかしい。  神奈川県警で刑事をしている。新米の刑事だ。  そして被疑者の弁護を担当するのが世界でただひとりの『ビジュアル系弁護士』の織田シンゴだ。  信じられないが、普段はビジュアル系バンドのギターボーカルをしていた。  ただし売れないインディーズバンドだ。もちろんヒット曲などない。金髪のロン毛でビジュアルだけは(さま)になっていた。  嘘か本当か知らないが、本人いわく末裔(まつえい)らしい。  そしてもうひとりが紅一点の織田マリア。シンゴとは遠縁に当たる関係だという。  ミステリーマニアで、自称アイドル界の『アガサ・クリスティ』だ。  勝手にシンゴの助手を買って出ていた。  押しかけパートナーだ。ボクの幼馴染みでもあった。  年下だが、いつもボクたちをアゴで使っていた。まるで姫君のような振る舞いだ。  ボクたちは被疑者と接見するため、この面会室へ赴いていた。  被疑者は住所氏名年齢不詳の自らを『宇宙人』と名乗る美少年。  前科もないので、身柄を確保されたあともまったく身元の確認ができないでいた。  彼の言うことを信じれば『ベガ星人』らしい。もちろんボクたちは、そんな荒唐無稽なサイエンス・フィクションなど聞く耳はない。  しかし逮捕されてから彼に関する詳しい情報は寄せられていない。    ガセネタばかりで警察もお手上げだ。  仕方なくタブロイド紙ではカレのことを『笑う宇宙人』と呼んだ。  いい得て妙だ。  正体不明の謎の美少年と言って良いだろう。    
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