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意味わかんない
その日の夕方、同僚の水野君が私を飲みに誘ってきた。
なんとなく、予感がする。
彼はきっと飲んだその先も私を誘ってくる。
飲むのだけが目的じゃない。きっとその後も…。なんとなく、あの表情をみたらそんな気がした。
「今週はちょっと…」
今回もやんわりと断った。
「そうか、忙しいんだね。また今度、誘うね。いい?迷惑じゃ、なかったら…」
「そんな、迷惑だなんて…」
「そう?それならよかった。じゃ、また今度ね…」
すごく嫌な気はしないけれど、そんなに乗り気にもなれずにいる。
いつも気にかけてくれるのは嬉しいけれど、彼を好きかといわれたらそんなに多分、好きじゃ…、無い。
帰る支度をしていると紺野君が声をかけてきた。
「アイツと二人で飲みに行くの?」
紺野君がこっちをまっすぐ見て私に訊いてきた。
いつの間にかそばに立っていたことにちっとも気が付かなかった。
水野君の事を考えていたから。
「なんで?」
「なんでって…」
「それ紺野君に言う必要、ある?」
不意に声をかけられてそんなことを紺野君に訊かれたもんだから、なんとなく動揺したのを誤魔化してそう言った。
「アイツは多分"そう言う"つもりだと思うけど?
水野が沢井さんのこと気になるって言ってたし。
アイツ、あぁ見えて割りと手が早いっていってたぞ?沢井さん、いるんだろ?彼氏…」
「いたらどうだっていうの?紺野君に関係ないじゃん…。」
自分のことを棚に上げて、手が早いなんて、紺野君たらよく言う。
「いいのか?彼氏いるのにアイツなんかと。」
紺野君なんかにそんなこと、言われたくない。
本当は彼氏なんていないなんて言いたくないし。まだ紺野君がこんなにも好きだなんて、絶対に知られたくない。
「いいじゃない?あたしに彼氏の他に男の遊び相手がいたって。あたしにもセフレの一人や二人いたって。」
女たらしのセフレが何人もいる紺野君なんかにそうやって説教じみたこと言われたくない。
「なんだって?沢井さん?それ本気で言ってる?」
自分もしてるくせになんでそんな驚いたような顔で私を見るの?
「本気だったら…なんだって言うのよ。」
見栄を張りたかったのかもしれない。意地を張りたかったのかもしれない。見せつけたかったのかもしれない。
悔しかったのかもしれない…。
「じゃあそれ…、俺にしろよ…。」
予想外な言葉が紺野君から返ってきた。
なんで私にそんな風に言うの?
無意識に睨み付けていた。
「なによ、なに言い出すのかと思ったら。なんで?なんであたしが紺野君のセフレなんかにならなきゃいけないの。サイテー。」
「サイテーなのはどっちだよ…。」
「なにが?どういう風に?」
「なんでもない。」
「紺野君は間に合ってるでしょ?
あたしがなってあげなくなさたって…」
「沢井さんに俺のセフレになって貰うんじゃないよ、俺が沢井さんのセフレになってやるって言ってんの」
「は?なにそれ?全然意味わかんない。それに、サイテーな紺野君にサイテーなんて言われたくない。もうほっといて!」
なにが?セフレ、俺にしろよ…だ。
こんなにもまだ本気で好きなのに、セフレにならないかって言われる私の気持ちなんか、紺野君にはわからない。
心がら苦しくなるほど、本当は今でもこんなにも好きなのに…。
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