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もう、この際だ。言ったついでに訊いてやる。
「紺野君は…?鎌田さんとは寝たの?」
「寝たよ。」
あっさり紺野君がそういった。
「そうなんだ。
なんか、昔とかわったよね。
紺野君。」
「俺より先に変わったのは沢井さんの方だよね?」
「え?」
「いや、別に。」
「ウルちゃんが紺野君に本気なんだって言ってたけど、彼女とのことはどうなの?」
「俺は誰とも付き合わないよ。
だから、ウルちゃんとも付き合わない。彼女にはもう、そう伝えたし」
「なんか、ひどい。ひどいよ紺野君。」
「俺だってそんなこと、沢井さんに言われたくないけど?」
「そうだよね…。あたしが言う事じゃない。もうあたしたちなんでもないんだから」
「そっちこそ?アイツのことどうするの?」
「関係ないじゃん、紺野君こそどうするの?鎌田さんとは…」
「それ、沢井さんに言う必要、ある?」
「な…、ないけどさ…。だって鎌田さんも好きみたいだし。ウルちゃんも…」
「そんなに知りたいなら教えてやる。鎌田さんはあの日、あっちからそう俺を誘ってきたんだよ。」
「うそ、鎌田さんは紺野君が誘ってきたって言ってた。」
「俺は誰かと付き合うつもりなんかないからゴメンて言ったんだ。彼女を作る気はないってやんわりそうやって断ったつもりだったんだけど。鎌田さんが俺を誘って来たんだよ。
今夜だけ付き合ってって。
俺は付き合いたいなら断るって意味で俺は言ったんだけど。
だけどさ、そんな風に誘惑されちゃったらさすがに断れないよ。」
「だからって…」
「彼女にしてなんて言わない。
セフレならいいんでしょ?って。
何も気を遣わなくていいんだから。
ゴメンなんて言わないで?
断らないで。って。
そう言って鎌田さんが俺に迫ってきた。
俺は言ったんだよ?
俺はこの先も誰とも付き合うつもりはないんだって。俺、実際そうだから…。」
「ずいぶん勝手だね。」
「そうかもね。
だけど俺はそうだから。
だから沢井さんもどう?
俺のセフレになる気になった?
セフレ欲しいんだろ?」
笑いながらそんな風に言ってきた紺野くんのほっぺたを無意識に叩いてた。
「バカにしないで!」
「冗談だよ。なに?本気にした?
だって彼氏とはうまくいってんだろ?」
「紺野君がそんな人だと思わなかった。」
「そんな人ってどんな人?
沢井さんこそ、本当はどんな人なの?」
私は人のこと言えない。
だって寂しさを紛らわすために、本当は紺野君が好きなくせにほかの人と…。
同じだ。やってることは同じ。
たくさんモテる紺野くんとそうじゃない私の違いなだけ。周りが放っておかない紺野君と、一人じゃいられない私っていう違いなだけ。
やってることは、結局同じだ…。
紺野君は自分を求めて来るみんなを大事にしようとして断れない。なぜって、優しいから。自分からは強く断れない。だからこんな風に。
あの時もそうだった。
怪我をさせた板倉さんの気持ちを紺野君は断れなかったし、責任を感じて言うとおりにしてあげた。
それは彼の彼なりの優しさ。
紺野君ほんと、ひとたらしだ。
わたしは紺野君を責めることなんか出来ない。
だってわたしだってひどいんだから。
寂しくて一人じゃいられなかった私は相手の思いに寄りかかって、そんなに好きでもない人の側にいながら、心のなかで紺野君を思ってた…。
紺野君がなぜか私に悲しそうに笑いかけてきたその顔を、私は見ることもなく背中を向けてその場をあとにした。
「やっぱりこれじゃだめか…」
なんて彼がそう呟いてたのなんか私の耳に届くはずもない。
結局私は、そんなに好きでもなかった水野くんと週末、待ち合わせをした。
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