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ウルちゃんと紺野君
「紺野さん、このあいだはありがとうございました。これ、よかったらどうぞ!」
ウルちゃんが職場に、家からタッパーに入った何かを持ってきた。
「え?なに?」
「ほら、このあいだ好きだっていってたから。作ってきました。お稲荷さん」
「え、あー。ホント?そうなんだ、ありがとう」
「こちらこそ、このあいだは無理に引き留めちゃってすいません。」
なんか…、親しげなやり取り…。
「そういえば、紺野さん忘れ物。」
ウルちゃんが折り畳みの傘を手渡した。
「うちの玄関に置きっぱなしだったから干しておきました」
「あ…。悪いね…、ありがと…」
みんなでそんな二人の会話に聞き耳を立ててる。小畑さんはスゴい顔で睨み付けてるし、鎌田さんは体を強ばらせて見ないようにしてる。
ウルちゃんが会社から程近いワンルームのマンションに一人で住んでいるのはみんな知ってる。
この二人の会話から連想しているのはきっと恐らくみんな同じだ…。
「よかったらまた来てくださいね!今度はご飯作りますから。」
嬉しそうにウルちゃんがそう言うと紺野君が困った顔をした。
「このあいだはウルちゃんが酔って一人で帰れないとか、傘がないから送って欲しいって言うから送っただけだよ、君のうちに遊びに行くつもりはないよ、ごめんね。ご飯も大丈夫。」
紺野君が申し訳なさそうに断ってるのを面白そうに小畑さんが見ていた。
優しすぎる男もそれはそれで問題なんだよ、紺野くん。いくらモテるからってさ。私もその優しさに惚れてしまった一人な訳なんだけれども…。
それで家まで送ってそのままウルちゃんに誘惑されちゃってそのままいただきますってしちゃったのかな…。
そんなウルちゃんの積極的なところとか、めげないところはある意味、スゴいと思う。私には真似できない。
そんなウルちゃんが突然、なんだか意味深な目で私を見てきた。
なんだか気まずくて目をそらした。
私の心の中を覗かれた気がした…。
紺野君もなぜか私を見ていた。
それに気づいたかのようにウルちゃんは紺野君の視線を遮るように私と紺野君の間に立ったのは、きっとわざとじゃないと思うけど。
「また終電無くなったらいつでもうちに泊まりに来てもらって構わないから…」
そんな風にわざとらしくウルちゃんが紺野君にそう言ったあと、なぜか振り返ってまた私の顔をみた…。
紺野君、そうなんだ…。終電無くなってウルちゃんのうちに泊まったことあるんだ…。
その日はますます紺野君が遠くに行ってしまった気がした。
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