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「知ってるよ?隠したって無駄。」
「な、なに言ってんの、別にそんなこと無いって…」
俺は普通に否定したつもりだったのに。
「うわ。もしかして本当にマジなやつ?なんかめっちゃ動揺してるし…」
なんとか笑いに変えようとしてるウルちゃんのその突っ込みには無理があった。
「は…?」
「紺野さんが女の人のことで動揺してるの、初めて見た…」
真剣な顔でそんなことを言ってきた。
「なんだよそれ…。」
俺もなんて答えていいのかわからない。まあ、多分図星だ。
「いいよ。ウルも諦めないから…」
なんだかわからないけどそんな風に宣言された。
あの日はウルちゃんを家まで送って、俺はそのまま急いで帰った。
だから傘を玄関に忘れたんだけど…。
ごめんな、ウルちゃん。
おれを本気で好きになってくれてありがとう。
けどさ。
どうしようもないんだ。
ウルちゃんの言うこと、多分全部…。
当たってる…。
それがたとえ一方通行だとしてもね…。
*
そんなことを一人心のなかで思いながら、今俺は目の前で酔った沢井さんの肩を担ぎながら、しぶしぶ帰っていった水野の背中を見送った。
危うく水野に酔った沢井さんをお持ち帰りされるところだった。
それにしてもなんだよ、沢井さんのこの泥酔っプリはさ。少しは加減したらいいのに。
なんて思いながら、俺の頭のなかはもう、その事で一杯だ。
今、目の前で酔っぱらってるこの人を今すぐ俺のものにしたい。
水野を追い払ったあと、二人きりになった俺は、酔ってる沢井さんにまだ帰らないと絡まれ、そのネオンに引き寄せられるようにのまま歩いてホテルに沢井さんを連れ込んでいた。
無理やり力ずくで俺のものにするつもりなんか無い。
足元も覚束ない彼女を無理やり押し倒すつもりは、ない。
だけど。だけどさ…。
*
「あれ?水野くんは?」
沢井さんが呂律の回らない口で俺に聞いてきた。
「もう帰ったよ。危うく持ち帰りされるとこだったじゃん。水野に。」
「え?持ち帰り?まだあたし帰らないよ?まだかえらなーい。」
酔ってヘラヘラと笑いながらそんなことを言ってくる。
「タクシー捕まえるから。
もう、沢井さん、今日は帰りなよ。」
「え!まだ、帰りたく無いのぉー。」
沢井さんはそう言ったっきり黙ったまま、俺に寄りかかってウトウトしてる。
で?どうすんだよ。
夜の街はまだ人で賑わってる。
電車はすでに終電の時間を過ぎた。
始発を待つ若者たちが24時間営業のカラオケ店やネットカフェに流れていく。どこも満室か待ち状態だ。
まだ帰りたくないってさぁ。
どうするんだよ、このあと俺たち…。
いく宛もなく夜の街を彷徨い、今に至る。
セフレになるだなんてそんなの口実だった。
俺は沢井さんを純粋に抱きたかったから。
セフレのふりなんかじゃない。
俺は今でも…
沢井さんがマジで好きだ…。
たとえその想いが届かなくても。
彼氏がいるのはわかってる。
幸せなら、もう陰で見守るしかないって諦めるけどさ…。
どうなんだよ、そこんとこ…。
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