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今でも俺は…(紺野side)
沢井さんがあんな風に言うなんて思ってもいなかった。
あの頃は顔も上げられずに、好きと言う言葉さえもあんなに照れて言葉に出来なかったはずの沢井さんが俺にあんな風に言うなんて…。
あれから月日は残酷にも過ぎていった。
きっとお互いに大人になって知識や経験が増える度に、夢や希望やいろんなものを手放してきた。
強さを得る代わりに純粋な気持ちや繊細な心に蓋をしてきた。
想いが届かなくなる度に、それを諦め、望まなくなった。
沢井さんが幸せならそれでいい、そう思っていた俺自身を過去に置き去りにして来たはずなのに、今さらそんな俺を迎えにいこうとしてる。
過去は変えられないけれど。
今はまだ変えられるような気がして。
まだ、間に合うんだろうか…。
間に合わなくたっていい。
それで彼女のそばにいられるなら、それで繋ぎ止めて置けるなら、セフレにでもなんでもなってやる。
そうすることでしかもう、俺はそばにいられないって言うのなら。
俺はそれでも構わない。
いつからか俺は誰とも本気になれなかった俺を求めてくる女の子のことを断れずに、こんな風になってた。
「俺は誰とも付き合わないよ?俺は誰かに縛られるのがいやなんだ」
いつしかそれが口癖になってた。
本当は縛られるのがいやなんじゃない。
忘れられないんだ。彼女の事が。
だからどうしても本気になれなかった。それでも近づいてくる女の子はいたし、断るのが可哀想に思えた。
ずっと、女の子に対して罪悪感があったからかもしれない。俺はいつだって女の子を幸せに出来ない。
あんなに大好きだったはずの沢井さんでさえ、あんな風にしたんだから…。
なんだか、いつも俺が相手の女の子にすごく悪いことをしているような気がしていた。
だから俺なんか、誰かと幸せになる資格なんかないと思ってた…
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