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「あたしこの後、彼と行くところがあるの。
まあ、そう言うことだから。
とにかく今日は帰って。
もう職場へは来ないで。
皆さんに迷惑かけるじゃない…。」
たまたま通りかかった紺野君の腕に私の腕を絡ませた。
紺野君は黙って表情も変えずに彼の顔をじっと見てる。
すると守衛さんがやって来た。
「どうしました?何か問題でも?」
「いえ、何でもありません。もうお引き取りいただきますから…」
「そうでしたか…」
守衛さんは彼が帰るのをじっと待ってる。
「チッ。なんか、沢井さんサイテーだな。」
舌打ちして捨て台詞を吐き、元彼が帰っていった。
彼の後ろ姿をため息混じりに見守る。
「いいの?彼氏、追いかけなくて」
紺野君が溜め息をついて腕をほどいた。
「いいの。ごめんね…」
__彼氏、だった人…。
元彼だなんて紺野君に言えなかった。
「なに?もしかして喧嘩中?深刻なやつ?」
「まあ、そんなとこ、かな…」
「なんだ、じゃあ俺の出る幕じゃなかったんじゃん。」
「でも、助かった。」
「何?浮気でもされた?」
「そんなんじゃない…」
紺野君は自分の事みたいに私を心配してくれる。
別れたことは言いたくない。
昨日のこと、言い訳出来なくなりそうだから…。
だからそんな風に優しくしないでよ。
余計に心が揺れるから。
そんな風にされたら、私はあなたのただのセフレなんかじゃいられなくなってしまう。
本気でまた、好きになってしまいそうで怖い…
「ちゃんともう一度話し合ったら?」
「え?」
「彼、なんか真剣だったし。
沢井さん、本当はこんな事する人じゃないだろ?
もっと自分を大事にしろよ。」
「大事にするって、なに?」
「そんな適当に誰かと寝るだけの関係だなんて、沢井さんには似合わない。
そんな人じゃなかったろ?
こんなこと、もうするなよ。」
俺とはこんなことするなよって言われてるみたいに聞こえた。
もう誘うなって言われたみたいな気がした。
「なに?お説教?紺野君にそんな風に言われたくない!
自分だって似たようなことしてるくせに。」
「だから!こんな俺みたいになるなって言ってんだよ!」
「え…?」
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