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いつの間にか私のほほを涙がつたっていた。泣くつもりなんか無かったのに。
「もう紺野君とは会うこと無いと思ってたのに…
なのに私の前に突然現れて。
でも紺野君は変わってしまっていた。社内で有名な女タラシの噂の人になってた。彼女を作らないで身体だけの関係を続けてるって、噂の人になってた。
だから…。」
「嘘だろ?沢井さん?
じゃあそのつもりで俺と?」
「そうだよ、悪い?あたしだってもう、あの頃の純粋なあたしじゃない。
すっかり身も心もよごれてしまった。もう私は紺野君が思うような人じゃないの。私の体は寂しくて人肌が恋しいし、一人の夜は誰かの体温を欲しがるの。
だから私だって同じ。
紺野君にとってその中の一人でもよかった。
わたしは所詮そんな人間だよ?」
そうだ。わたしはもう、あの頃の純粋な私じゃない…。紺野君が好きでいてくれた私じゃない。
「それは俺の方だ。
沢井さんに彼氏がいるなら、俺は一晩限りの相手でもいいなんて思ってた。
沢井さんを忘れられなかった俺の欲を満たすために。
彼氏がいる沢井さんのそばにいっときでもいたいとおもったから。
幸せになって欲しいなんて口ではそう言って願ってるくせに、やっぱり俺は欲深いし、やっぱり沢井さんを忘れられない。」
「紺野君…」
私たちはお互いに大人になってた。心も体も、もうあの頃とは、違う…。
私たちはお互いにすれ違ったまま、あの頃の初恋を拗らせていた。
お互いに忘れられずに、今でも気持ちがすれ違ったまま。
いまもこうしてお互いを想い合っていた。
相手を忘れられずに、恋を終わらせられずに、ただそばにいたくて、偽りの顔をしていた。
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