派遣さん

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派遣さん

正社員のみんなは私をこう呼ぶ。 『派遣さん。』 ちゃんと名前があるのに。 いつも呼ぶときは、派遣さん、だ。 「派遣さん、悪いんだけどここ、片付けといて?」 「派遣さん、これあとよろしくね。」 「派遣さん、ゴミ纏めておいてね。明日はゴミの日だから、明日よろしくね。」 派遣さん…、派遣さん…。 私は雑用係じゃない。 一応、パソコンの入力専門のオペレーターとしてここへ派遣されて来た。 だけど。 現実はそんなに甘くない。 派遣と言う立場は、会社からの保証がなにもないかわりに時給が高いのに。 高い金額払ってんだからこのくらいやってよ、なんてあからさまにそんなことを言われる。 派遣会社を通してるんだからその金額を全部私が貰ってる訳じゃないし、そこから交通費だって払ってるし、ボーナスもないって言うのに。 実質手元に残るのはそんなでもないんだってこと、言いたいけれど。 そんなことをいちいちここの社員さんにわざわざ言うことでもないし…。 「はい。わかりました…。」 立場が弱いからそう言うしかないのだ。 こんな時に気さくに話しかけてくれる総務の中村さんだけが私にとって気の休まる人だった。 あの噂好きなところを除いては。 中村さんは私を派遣さん、なんて呼ばないし、沢井さん、とか、万由ちゃんなんて呼んでくれる。 それだけでなんだか少しだけ距離が縮んだような気がして心が軽くなる。 だってやっぱりちょっとしたことで正社員さんとは距離を感じてるから…。 今日は、あとでやろうと思ってたごみ捨てをすっかり忘れてた。 出勤するなり仕事が山のようにあって。それなのに、また派遣さん、派遣さんって。あっちこっちから指示が飛ぶ。 私は優先順位を自分なりにつけて片っ端からこなしていく。 だから、ごみ捨ては優先順位が最後になった。 朝の十時半。ごみ捨ての時間をとっくに過ぎてる。 ヤバい。ゴミ収集車が来ちゃう時間だ。 ビルの地下のゴミ置場まで手押し車にゴミを載せ、エレベーターで向かう。乗りきらない分は往復するしかない。 間に合うかな… 一旦置きに行ったあと、再び戻ろうとすると、そこには重そうに両手に四つもゴミ袋を抱えた人が立っていた。 あ、紺野くんだ…。 知らん顔してゴミを二つずつ両手に抱え、集積所に入ってきた。 「あ、あの…」 「ごみ、これで最後だから…」 それだけ言うとさっさとその場を去っていった。 __紺野くん。 久しぶりに聞いたその声は少しだけ大人びていた。 こうして目が合うだけで、声を聞くだけで、やっぱり今でも心臓の鼓動が早くなり… 高鳴る…。
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