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だけど。
やっぱりこうして紺野君の声を訊くとキュンとするし、目が合うとドキドキする。
相変わらずキラキラしている彼に対するわたしは、私はあの頃とちっとも変わってなかった。
恥ずかしくて相変わらずドギマギして俯くばかりだ。
いつの間にか体ばっかり大人になった。人並みにすることはしてきたし、一応は恋も一通り経験した。
だけど。紺野くんに対する気持ちだけは少しも大人になってない。
あの頃のまま…。
紺野君はもうとっくに私より先を行ってるっていうのに。私はまだあの頃のまま、こうして今も足踏みをしてる…。
こんなにもキラキラした彼を見るたびに、私は置いていかれてる気がしてならない。
だからかも。妙に見栄を張りたくなる…。今の私に満足してるように見られたいのかな。
彼を自分から手放したくせに、今になって後悔してる…。
紺野くんは噂通りの人だった。
もう昔の紺野くんじゃない。お互いにもう大人になった。
きっとあの頃とは価値観だって変わったし、恋愛観だって。
お互いに純粋に好意を寄せあってたピュアなあの頃とはもう違う。
私なんかとあんな風に目が合うだけでドキドキしていた頃の彼はもういないんだ。
だから__。
勘違いしちゃいけない。
そう自分に言い聞かせればするほど。
やっぱり彼の存在が気になってしまう。
私と紺野君がいた給湯室に鎌田さんが入ってきた。
来るなりなんか、紺野君に目配せしてる。
「昨日は大丈夫だった?」
紺野君は何も隠す様子もなく普通に鎌田さんに話しかけていた。
「え?」
「帰りは間に合ったの?終電」
「え、うん。」
照れた顔して鎌手さんが返事をしてた。
終電…、か。
二人で泊まった訳じゃ無いんだ…。
「そっか。無事に帰れたならよかった。」
こんな時も紺野君は優しい。
紺野君は多分、誰にでもこうやって優しい。
私は静かにその場を後にした。
一応は気を利かせたつもりだ。
給湯室から出てきた私を小畑さんがジロッとみた。
「あー、派遣さん。ちょっと急ぎでお願いできる?」
部長が早速今日も私に声をかけてきた。
「これ、午後イチで急いで入力してくれる?」
「はい…」
まだ昼休みだって言うのにいきなり作業の説明が始まった。
給湯室ではまだ二人の楽しそうな笑い声が外までこぼれ聞こえてきていた。
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