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夏帆
2023年12月25日
鏡の中の女性は恍惚の微笑みを湛えていた。
緩く巻き上げた黒髪にはスワロフスキーの髪飾りが繊細な光を弾き、腰までの白いチュールレースのベールは色白の頬、黒曜石の瞳、紅に彩られたふくよかな唇を厳かに覆っている。
シャンパンカラーのウェディングドレスは張りのある美しい胸を惜しげもなく披露し、ウェストから裾へと広がる豪奢なリボンは白と黒の大理石の床を隠した。
そしてサテンのウェディンググローブには真っ白なカサブランカの花束、螺旋に揺れるグリーンのリボンが目に鮮やかに映えた。
大塚 夏帆(25歳)
夏帆はこの日、高田夏帆から大塚夏帆となる。
教会の祭壇の前には夫となる大塚 洸平が待っている。
教会の鐘が鳴る。
木枠の窓から臙脂色の教会の屋根が見え、その奥に真鍮の鐘が左右に揺れていた。オリーブの木が風に騒めき、ふと目線をマホガニーのチェストに移すと携帯電話のバイブレーションが響いた。
「夏帆、こんな時くらい電源、切っておきなさい」
「忘れてたの」
LINE通知がバナーに表示されていた。
大塚洸平
(洸平さんから?)
夏帆は祖父へと振り向いた。
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