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映画の宣伝のために出ることになったバラエティ番組。
今回の趣旨は『懐かしのあの人とご対面』。
いったい誰が登場するのか…番組内では、クイズ形式でサプライズゲストを当てることになってるけれど、本当は、誰が来るのかは事前に伝えられている。
小学一年の時の担任の先生。中学三年間、一緒に部活で汗を流したチームメイト…などなど。
現れる人物は判ってる。その上で、さも知らなかった風を装い、驚けばいい。
その筈だったのに、今俺は、本気で心から驚いている。
だって、ここに現れるなんてありえない奴が来たから。
冗談半分で無視したり攻撃したりした、中学の時のクラスメイト。
ちょっと調べれば、呼ぶのに適切でない人物だとすぐに判る。…正直、それだけのことをした。
だから絶対来る筈がないそいつ。というか、物理的に来られる筈がないんだ。
だってそいつはとっくに死んでる。俺がいじめの首謀者だったという遺書を残して死んでいる。
もちろん、デビュー時に事務所があれこれ調べ、その遺書のことはもみ消された。
いじめの痕跡なんて何も残っていない。だから堂々とデビューすればいい。
そう言われて今までやってきた。だけど今になって…。
混乱する俺をよそに収録がスタートする。
いくつも並べられたボックスには、中にいる人のシルエット。それを見ながら、機械で音声を変えた人達とやりとりをし、それが誰かを当てていく。
そのボックスの向かって一番右端。MCが話を振っても何も答えず、『無口キャラ』としていじられている人物。
いったいそこには誰がいるんだ?
もういっそ、誰かが告発のためにそいつの名前を語っている、とかでもいい。過去が暴露されて何もかも失っても構わない。だからどうか、この世にはもういないあいつ自身がそこにいる、なんてことにだけはならないでくれ。
だってきっと、その姿を見てしまったら、俺は正気を保てそうにはないから。
次々と他のボックスが開き、懐かしの対面が繰り返される。その一つごとを作り笑いで乗り切りながら、俺は、いまだ伏せられたままのボックスにだけ意識を向けた。
対面…完
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