私の好きな物

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私の好きな物

 リリアはポールが好き。  ほんの子供のころから近所に住むポールが大好き。  ポールは最近はリリアの友達のサーシャのほうがお気に入りだ。  でもこんな時にも、リリアは慌てないの。  リリアは素敵なスカートを持っているの。  魔法使いのおばあちゃまから貰ったスカートで、そろそろきつくはなっていたけど、便利なのでまだ持っていたの。  右のポケットに消したいものを入れればその本体も一緒に消えてしまう。  左のポケットに好きなものを入れればその本体はリリアとずっと一緒にいてくれるのよ。  たまたまそのスカートを学校にはいて行った日に事件は起きたの。  リリアはサーシャとも仲良しだったからサーシャを消すのはちょっと寂しいと思って、なかなか思いきれなかったのだけれど。  ある日、放課後サーシャと一緒に帰ろうと探していたら校舎の裏の庭でポールがサーシャにキスしていたの。  リリアは思わずカッとなって、昼間サーシャに借りたハンカチを右のポケットに入れてしまったわ。  ポールの目の前から急にサーシャが消えたのでポールはキョロキョロしてサーシャを探していたわ。  リリアはポールの所に駆け寄って、 「サーシャはポールの事好きじゃないのに、キスされたから怒って帰っちゃったわよ。」  と、嘘をついたの。  ポールは何か言いたそうにしていたけど、リリアが怒っているみたいだったから何も言わずにそのまま帰ったの。  サーシャのお家ではサーシャが帰ってこないので心配でみんなのうちに連絡してサーシャを探したわ。  リリアはそのスカートを魔女のおばあちゃまから貰ったのだけれど、右のポケットに入れたものは消えてしまうし、どこへ行くかわからなかった。  もちろん、一緒に消えてしまう本体もどこへ行ってしまうのかはわからなかったの。  リリアはサーシャを本当に消すつもりなんてなかったのに、ついカッとなって消してしまって後悔したわ。    リリアは自分の部屋で泣きながら、どうしたらいいのかしらと思って、相談相手が欲しくなったの。  そこで、前にポールから貰ったポールの野球のボールを左のポケットに入れると、リリアの部屋に急にポールが現れたわ。  でも、相談しようと思って呼んだポールはいつものポールとは違って、リリアの事しか見ないし、リリアの行ったことには 『そうだね。』『リリアの言う通りだ。』  としか返事をしてくれなくなっていたから、サーシャの事を相談しても何も解決しなかったの。  ポールの家の人もポールが急にいなくなったので、友達の家に連絡してポールがいないかを探したわ。  そこで、リリアの部屋にいることがわかったので、ポールはおばあちゃまの作ったお茶を飲んでお家に帰ったわ。  これで、今日の事はきっと忘れてしまうっておばあちゃまは言ったわ。    その後、リリアはおばあちゃまに呼ばれて、二人だけでお話したの。  リリアが今日してしまったことをおばあちゃまに正直に言ったわ。  おばあちゃまはリリアを見て 「まぁ、リリアちゃんがそんなことを考える年になっていたとはねぇ。」  と、まずは驚いた。  おばあちゃまは、魔女の血を引いているけれど、まだ魔法が使えないリリアが虫を怖がるから、右のポケットに、虫の卵や、クモの巣なんかを入れれば、リリアの周りにはその虫は現れない様に魔法をかけてあったの。  左のポケットには大好きなキャンディの包みを入れればいくらでもリリアの前にキャンディが現れるようにそのスカートを作ってくれたのよ。  まさか人間を消してしまおうと考えるほど大きくなっているなんて驚いたし、リリアがまだそのスカートを持っていた事にも驚いていたわ。 「もう少し小さめに作っておけばよかったねぇ。さて、サーシャを消した時にポケットに入れたのはハンカチね。」  そういうと、おばあちゃまは部屋の隅から水晶玉を取り出して、中を覗き込んだわ。 「あぁ、いたいた。可哀そうに雨の国に送られちゃったみたいね。」  そう言うと、杖を振って何か呪文を唱えた。  スカートからサーシャのハンカチが出てくるとそこにポンッとサーシャが現れた。ビショビショに濡れていた。  おばあちゃまはサーシャの服を魔法でさっと乾かすと 「さぁ、リリア。サーシャに謝ってね。」  と、促した。  リリアはサーシャに魔法のポケットでサーシャを消してしまった理由を言って、 「本当にごめんなさい。サーシャがいなかったら私だってとてもさみしいのに。二度としないから許してください。」  と、心から謝った。  サーシャは自分が突然土砂降りの地面に放り出されたのはリリアのポケットのせいだと聞いて驚いた。 「リリア、ポールの事だけど、キスなんてしてないよ?リリアを待ってたら目にゴミが入っちゃって。校舎の裏の方が風が弱いからって、ポールが連れて行ってくれて、目のゴミをハンカチでとってくれていたの。私のハンカチはリリアに貸しちゃってたでしょ?だからポールのハンカチで。」  おばあちゃまは、ポンッと手を打って笑い出したわ。 「あらまぁ、リリアのやきもちがキスをしていたように見せただけかい。あぁ、でも、ともあれ、サーシャちゃんのお家の方はとても心配しているから、私が一緒に行って謝ってあげようね。私のポケットのせいでもあるのだから。」  おばあちゃまはそう言って、箒に跨り、二人を乗せて、星が瞬く綺麗な夜空の中をスイ~ッと飛んでまわったわ。  途中で、お月様にさわらせてくれたり、お星さまの欠片をとってくれたりして。  二人は上機嫌だったわ。  サーシャのお家の人もおばあちゃまのお話を聞いて、 『二度とそのスカートをはかない事。』  と、リリアに注意をして許してくれたの。 「また、明日ね。」  リリアとサーシャは明日学校へ一緒に行く約束をしたわ。  リリアに魔法が目覚めるまでは、まだサーシャやポールと一緒に人間の学校に行くのだから。 【了】
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