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看護師からスマホを見せられた。
遥香がぴーちゃんを肩や頭に乗せてる写真。加湿器の箱を工夫したり、ぴーちゃんがお水を飲んでくれたって喜んでる動画。
「なんで」
美希は小さく呟いた。
「君じゃなかったんだね」
静かに真也も呟いた。
「ごめんなさい。好きになったから、話す勇気がなくて」
美希は、しゃくりあげて泣きながら、
「遥香は仕事があって…警察に行けないからって頼まれたの…私もぴーちゃん…早く家に帰してあげたいって、遥香と同じ気持ちだった。真也さんわかって」
真也はテーブルに肘をついて頭を抱えている。
看護師がまたスマホを見せてきた。
今朝、美希がお見舞いに来た時のものだ。遥香に酷い事を言って泣かしている。耳元で、消えてしまって、と呟いた声も聞き取れた。
遥香と同室のお婆さんが、美希の暴言を撮影していた。美希が病室を出たら、すぐに、遥香を慰め看護師に通報していた。
「こんなもの、違います。私は刺激を与えたら記憶が戻るかもって」
美希は、怒りに任せて両手でテーブルを叩いた。
「医師としてあなたに面会時の注意を話しました。看護師も同席してます。あなたは、谷本さんの記憶が戻らないような言動を、わざとした。これは業務妨害罪にあたる行為です」
「そんな…」
「それと、谷本さんのスマホを勝手に操作して画像、動画を削除しましたね」
「そんなこと、してない」
美希は髪を振り乱して、叫んだ。
「削除した時間、谷本さんの意識はありません。その時間、あなたが面会していました」
「違うわ、皆んな遥香に騙されてる。遥香が私に嫉妬して嘘ついてるのよ!」
「真也、どう思う」
美希は医師の声に顔をあげた。三枝と書かれたネームプレートが目に入った。
「私は真也の兄で脳神経外科医です。父は外科医で、この病院の院長です。この病院は、母方の祖父が建てたんですよ」
「えっ」
真也と結婚することしか頭になくて、担当医の名前さえ、気にも留めていなかった。
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