幸せの青い鳥

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 三枝 真也は ホテル タカナシのロビーで待っていた。 「こんばんは、遅れてすみません」 「僕が早く来すぎて、まだ、19時になってないので」  2人は見つめ合って笑った。  真也はネイビーのスーツに黒のチェック柄のシャツ、さりげなくブランドのネクタイ。まるでファッション誌から抜け出してきたようだ。              美希はネイビー無地のワンピース。白い襟とボリューム袖、ふわっと広がったシルエットが上品な雰囲気を醸し出している。黒髪にして、肩までのふわりボブヘアで、清楚系を全面に押し出していた。  最上階のレストランCieuxに真也が入ると、個室に通してくれた。 「すごいー」  壁一面の窓から見える夜景は宝石のように輝いている。 「予約してくださったのですか。素敵」  恥ずかしそうに三枝 真也は 美希へ椅子を引いてエスコートした。 「夢みたい」  美希と真也は、ディナーとワインと夜景よりも、2人きりの時間を楽しんでいた。 「槙野さん、ぴーちゃんをどこで」 「ベランダの窓を開けていたら、青いセキセインコが入ってきて」 「そうでしたか。びっくりされたでしょ」 「ええ。とっても。でも、あのチラシを見ていたので、あっ、ぴーちゃんだってすぐわかりました」 「友人にも手伝ってもらって隣町にも配ってたんです。よかったチラシを作って」  頬を緩めながら、真也はキャビアとアワビのソテーを口にした。 「加湿器の箱の中ですが。僕は感動しました」 「えっ?」 「緩衝材(かんしょうざい)で囲ってタオルを引き詰めて、お水入れも動かないようにしてありました。ぴーちゃんが怪我をしないように、やさしい方だなって」 「そんなこと、当たり前です。誰でもそうしますよ」 「いいえ、そんなことないです。あのぉ」  真也が何か言いかけた時、トントンとドアがノックされた。 「失礼致します。三枝様、本日はお越しいただきまして、ありがとうございます。総シェフの三国でございます」 「素晴らしい料理ばかりで、堪能しました。ありがとうございました」 「恐れ入ります。では、ごゆっくりお過ごしください」  総シェフが、深々と一礼して出て行く姿を見ながら、美希は真也は何者なんだろうと改めて観察していた。  ピッタリなスーツはオーダーだろう、靴は最高級ブランドじゃない。袖口からチラチラ見える時計も上品な革ベルトで、確か有名俳優がつけてたやつだ。 世界に50本だけの限定品。 「ええっ」  美希は思わず声を漏らした。もしかして……。 「ちょっと、夜景を見ませんか」  真也は美希の椅子を引いて、エスコートしながら窓の側に並んで立った。 「あの、僕と付き合ってください」 「えっ」 「あっ、驚きますよね。僕のこと何も知らないのに」 「ええ、まぁ」 「34歳です。パラキート コーポレーションで不動産関連事業の企画、開発の仕事をしてます。僕の叔父が社長なんです」 「そうなんですか。叔父様の会社」 「叔父は小鳥遊 才蔵(たかなし さいぞう)です」 「えっ?」 「はい。ここのホテルは叔父が経営してます」  美希は言葉も出ないくらい驚いていた。 「叔父は母の兄なんです。叔父夫婦には子供がいなくて、僕のことを幼い頃から可愛がってくれて、叔父の会社の跡を継ぐことになってるんです」  もう、夜景どころじゃない。美希はすでに夜景に背を向けていた。 「ぴーちゃんが逃げてしまった時、ぴーちゃんが未来のお嫁さんと引き合わせるために、飛んでいったんだって、そう思って悲しい気持ちを誤魔化してました。ぴーちゃんは幸せの青い鳥なんだからって、あーー変な奴ですね」  真也の顔が真っ赤なのは、ワインのせいではないようだ。 「いいえ、ステキです。ぴーちゃんが三枝さんと会わしてくれたんですね」  真也はぎこちなく美希の肩に手を置いた。 「僕とお付き合いしてください」 「……はい」  2人は夜景を見ながら肩を寄せ合っていた。
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