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アスカちゃん
家に帰ると、玄関に大きいパンプスがきちんと揃えて置いてあった。
これはアスカちゃんのだ。わたしはリュックを玄関に放り投げると、居間にいるだろう二人に声をかけた。
「ただいま! アスカちゃん来てるの?」
「おかえり、正解! アスカちゃん来てるわよ」
「お邪魔してまーす」
母とアスカちゃんのにぎわしい声に、わたしは嬉しくなって小走りで廊下を抜け、居間のドアを開けた。
「あら梨花ちゃん、また綺麗になって!」
「アスカちゃん久しぶり!!」
「梨花、手を洗ってきなさい」
わたしは慌てて居間を出て、洗面所で手を洗った。居間に戻ると母がわたしにお茶を淹れてくれていた。
「梨花ちゃんは会うたび綺麗になるわねぇ」
アスカちゃんが目を細めてわたしを見る。わたしは照れ臭くて顔がにやつくのを止められなかった。
美容関係のwebライターをしている彼女は、年上のいとこだ。私とはちょうど16歳違う。紘子さん……母の12歳上のお姉さんの忘れ形見で、現在32歳だ。流行のメイクや美容雑貨、ファッションにとても詳しい。よく海外に行ってはおみやげを買ってきてくれる。いつも明るく楽しくて、話題が豊富だ。
「これね、この前韓国行ってきたからおみやげ。梨花ちゃんも食べて」
「ありがとう、おいしそう!」
アスカちゃんが買ってきてくれたおみやげのお菓子を摘みながら、旅行先で撮った写真を見せてもらい、話を聞く。
アスカちゃんはいいなぁ。好きなことを仕事にして、好きなように生きていて、すごく輝いている。
「今度の韓国は何しに行ってきたの」
「主に新しい美容関係の取材ね。後、サプリメントの爆買い。友達にもたくさん頼まれたから」
「へぇ、わたしも行ってみたいなぁ」
「あなたは大学受かったらね」
釘を刺す母に、ちぇっと心の中で舌打ちをする。
母はそんなわたしの心を知ってか知らずか「おみやげ食べたら部屋に行っててくれる? ママはアスカちゃんと話があるの」と言った。
「えー、まだアスカちゃんの話、色々聞きたいのに」
「梨花ちゃん、今度時間取るからどっかで会おうよ。そのときに韓国で仕入れてきたメイクパレットも持っていくから、メイクもしてあげる」
「ほんと!?」
アスカちゃんがきゅっとウインクをして見せる。
わたしは「じゃあ中間テスト終わったら、新大久保も行きたい。連れてって」
「もちろん!」
アスカちゃんはにっこりと微笑んで頷いてくれた。
わたしはアスカちゃんに軽く手を振ると、廊下に置きっぱなしにしていたリュックを拾い、そのまま二階に駆け上がって自室に入った。
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