自覚~沢島side2

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 鍋は蓋がしてあり、横にどかしてあった。テーブルは綺麗に拭いて片付けてあった。俺はケーキを向かい合わせに置くと、ドスンと座った。  もう一度カードを出してそっと見た。そして、腹が立って、そのカードをゴミ箱へ捨てた。  俺のケーキが食べたい?俺が作れなくなった状況を知っているくせに、あいつは無視して来た。  今更なんだ。結婚するからけじめで連絡をしてきたんだな。  有紀に未練があったわけではない。ただ、無性に腹が立った。  苦情問題の原因がわかり、謝りたかった俺は何回か連絡した。だが、メールや電話は全て無視されてきたんだ。  田崎が紅茶をポットに入れて運んできた。ケーキをひとくち食べて顔をぐちゃぐちゃにして喜んでる。美味しいしか言わない。  俺は、ひと切れ食べて口に広がるラム酒の香りと風味にまた有紀の顔を思い出した。  有紀は、フルーツを入れたケーキにラムを入れたがる。幸せだったころ、レシピを一緒に考えていた頃のことが走馬灯のように頭によぎる。 「課長?美味しくないんですか?」  気がつくと目の前で田崎が心配そうに俺を見てる。いかん、すっかり目の前から逃避していた。
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