上司卒業

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上司卒業

「田崎さん。悪いけど、明日から頼むわね。今日も私は定時であがるから……」  桜井さんが団扇を振っている。私に確認しろと言っているのではなくて、団扇を振りに行くと言っているのだ。彼女は明日から夏休み。推しのコンサートが北海道で明日からある。一緒におやすみを一週間取って、コンサートと観光にお出かけされるらしい。 「あー、楽しみ。今回も推しの団扇作りでここのところ寝てないからちょっと眠い。あふっ。ごめん、このファイル全部田崎さんの方へ送っておくね。よろしく」 「はい、了解でございます」  桜井さんは横で私を見ながら、にっこりした。 「ああ、本当に成長したわね、田崎さん。あっという間に出来るようになったわねえ。あの頃のミスが懐かしい……」 「あはは、何しろその団扇のお陰で、大きなミスをするところを何回も救われていますからね。もはや桜井さんのお陰と言っても過言ではありません。ありがとうございました」  まるで拝むように手を合わせて桜井さんに頭を下げた。桜井さんは恥ずかしそうに手を振っている。 「ちょ、ちょっとやめてよ、もう……」 「えへへ」
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