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嘘泣きするポーズをしている。須田さんもこっち見て笑ってる。彼も営業へ異動になる。武田君の下は入ってくるらしい。いいなあ。
「田崎、ちょっと……」
課長が私を手招きした。もう、嫌だ。また何か頼む気?
「またですか?さっきのはまだ大分かかりますから、次のは……」
「そうじゃない、ちょっと……」
そう言うので、苦笑いをして私を見ている先輩方をおいて、ついていく。廊下へ出て、会議室へ入る。
「どうしたんですか?」
ドアを閉めて、彼が後ろ手に鍵を掛けた。私の手を引くと、腕の中にしまった。ふわりと彼の香水の香りがした。
「そんな顔するなよ。いじめてるわけじゃないけど、お前と話す時間を作りたくて、つい、頼んじゃうんだよ」
「……え?」
そう言って、ぎゅっと私を抱きしめた。
「異動するとさ、お前とは本当に会えなくなる。いやもちろん、家では会えるけど。同じ会社でも建物の場所が違う。行き来はほとんどないんだ。だから会わないと思う。距離もあるし、忙しくなって帰りも遅くなる。お前が想像している以上に二人の時間は減ると思う」
そうだったのか。私、考えなしだったのかもしれない。
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