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むう。いかげそを口に含みながらちろりと私を見て課長が言った。
「……その通りです。発注ミスをして二万円損失を出し、給料から引かれたこともあります」
「ひえー。バイトで引かれたのか?それは可哀想だったな。でも辞めないで頑張ったんだろ?今回みたいに落ち込んでも前向いて頑張ったんだろ?」
「……はい。辞めないのかって他のバイトの人からも聞かれました。でも田舎の母や応援してくれている兄にコンビニバイトしている話していたのに、すぐ辞めたら心配かけてしまいそうで辞めなかったんです」
「そうか、意地で頑張ったんだな」
「まあ、そういうことです」
「理由はどうあれ、やり抜いたのはすごいな。最初は誰でも何かしらやらかすもんだ。お前のいいところは笑顔と明るさと根性だ。落ち込みすぎてそれをなくすなよ」
課長がその時私に向けてくれた優しい瞳を、その日以降忘れることはなかった。それくらい、優しい目だった。
「……課長。優しいですね。私、涙が出そうです」
「そうだろ。俺は鬼と呼ばれているが、ほんとは優しいんだよ。でも俺に関わる仕事で何かやらかしてみろ、鬼になるからな。覚悟しろよ」
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