カボチャプリンの恩人

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「……先ほどは従業員を助けて頂きありがとうございました。こちら、気持ちばかりですがお礼です。よかったらどうぞ」  そんな店長を見て、彼は鮮やかに笑った。 「いや。じゃあ、お言葉に甘えます。ごちそうさまです」 「いえ、こちらこそ。ありがとうございました」  二人で頭を下げているうちに彼は出て行った。店長はそれ以降、トラブルの仲裁をやっとするようになった。彼のお陰だ。彼にもう一度会えたらお礼を言おうと思っていた。ところがそのイケメンはそれ以降、私がいる昼間の半年間は一度も来なかったのだ。  私は田崎すみれ。大学生だがもうすぐ就活予定。田舎は長野で、大学合格後上京した。最初は女子寮暮らしだったが、ここ一年ようやくひとり暮らしになった。  だが、なかなか大変。親は長野で料亭をしている。そのせいか、とにかく家事が苦手。料理はしなくても賄いをもらって食べていたし、自分で作ることはなかった。  妙に舌が肥えているのも自覚している。卒業前に父から地元の専門学校に料理を習いに行くか、母について女将修業をするか選べと言われて、親に内緒で大学の文学部歴史学科を受験した。
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