料理の師匠

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「お前は無防備だからな。風呂上がりに髪の毛をあげてうなじ丸見えでうろうろしたり……俺はドキドキしながらも上司としてちゃんと我慢しているんだ。えらいだろ」  胸を張ってえらそうに言う。もう、そういうところからして私にその気じゃないってよくわかる。  最近は、夜時間があるとリビングでふたり話をしながら飲んだりして、すっかり家族モードだ。  私には料理の得意なお兄ちゃんがいたので、課長はお兄ちゃんに見えますと言ったら、嫌な顔された。でも私の中では確実にそのポジションに課長は収まった。  課長もこんな女子力ゼロ女、きっと妹にもしたくないんだろう。私はここ最近ずっと考えていたことを、勇気を出して口にした。 「……課長。ひとつお願いがあります」 「なんだ?」 「今月中に出て行けるように家を捜しますが、それまでに時間があるときでいいので料理を教えてもらえませんか?」 「……はあ?」 「家では怖くて誰にも言えなかったんです。習いに行くと言ったら料理学校に入れられそうだし。もしよろしければ授業料もお支払いしますので、教えて頂けませんか?基礎でいいんです」 「どうして急に?」
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