料理の師匠

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「付き合っているフリをして、縁談がなくなったら、別れたという説明で乗り切るということですか?」 「ああ。うまくいくかもしれんぞ」  私は一瞬本気でそれをお願いしようかと思った。でも課長を見て考えを改めた。  両親だけでなく、お兄ちゃんも騙さないといけないというのはなかなか大変だと思う。  実は、お兄ちゃんは結構鼻がきく、というか観察眼が鋭いタイプ。嘘をついたり、物を隠したりして騙しぬいたためしがない。  もし課長と付き合っているフリをしたら、きっと課長を問い詰めたり失礼なことを絶対聞いたりしそう。  それに関してはお父さんもそうだ。課長に絶対迷惑をかけてしまいそう。 「うまくいかないと、課長に迷惑がかかりそうです。それについては他の方法を年末までに考えます」 「女子力ゼロのままで縁談破棄してもらう作戦も悪くはない。どうする?」 「その作戦は悲しすぎます。事実ですけど、店の名前に泥を塗ること間違いありません。頑張りますので料理を教えてください。お願いします」  私はビシッと立って、右手を上げた。
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