料理の師匠

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 そう言われて、課長の長い指が急須を持ち上げているところをじいっと見た。  コーヒーも細い口のポットから入れていく。高さが低すぎるといって後ろからポットを一緒に持ってくれた。  手を握られて緊張する。後ろに課長の身体があって覆われているみたい。 「よし。やってみろ」  緊張して息を止めていたので、手が震えて少しお湯がこぼれて左指にかかってしまった。 「馬鹿!やけどしていないか?」  お湯のかかった左手を急いで握ると、水道のじゃ口から水を勢いよくだして私の手を水にかざした。 「……だ、大丈夫です。すみません」 「お前はもう、本当に心配で目が離せん。子供か!」  私の手を拭くと目の前に持って行きじっと見ている。そして、その指を何故か彼の口元へ持って行った。  私の人差し指と中指を口に含むとペロリとなめた。 「よし、これで大丈夫だ。消毒してやった」  私がびっくりして左手を引っ張って自分の右手でその手を胸に当て隠した。  きっと真っ赤になってる。なめられていたところがなんとなく熱い。 「今日は遅いからこれでおしまいにする」 「あ、片付けは私が……」
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