料理の師匠

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「蝋燭はなしでいいな?」 「もちろんです。こんな綺麗なケーキに穴を開けるのは嫌です。切りたくない……」 「馬鹿め。切らないと食べられないし、俺の作った美しい断面が見られないだろ」 「……た、確かに。あ、コーヒー入れますよ」 「今日は俺がやってやる。何しろ誕生日だからな」  そう言うと、課長はとっておきだというダージリンのファーストフラッシュという春摘みの新茶を出してきて入れてくれた。  美しい断面。ピンク色の中に刻んだイチゴが見える。大きな口を開けてケーキを一口食べた。 「うわあ、美味しい。柔らかくて、このソースも甘酸っぱい。はあ……幸せだ。ありがとうございます、課長。夢みたい……」 「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。明日のほうがもう少し落ち着いて美味しくなるだろうけど、まあ、できたてはほとんど食べることが出来ないから貴重だな」 「今日だってめちゃ美味しいです。あーん、美味しいよー」 「何、泣いてるんだよ!?」  私は気づいたら涙目になっていた。 「だ、だって、嬉しい。課長忙しいのにこんなにしてくれて……私、課長のお誕生日に何をしたら返せますか?」
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