自覚~沢島side2

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 キッチンで夢中になっていると色んな事を忘れられる。  鍋の蓋を取って、中身を確認しようとしたら、後ろから声がした。 「課長。春日課長は帰ったんですか?いい匂い……お腹すいちゃった」  そう言って、田崎がふらふらと歩いてきた。俺の横に来ると、鍋の中身を見て歓声を上げている。 「わわわ、これってかにですか?すごい、わあ、ホタテとか大きなエビとか、なにこれ?もしかして貝ですか?すごーい、食べてもいいですか?」  無邪気に笑い顔を見せる彼女が無性に可愛くて、俺は肩を抱き寄せ、頬にキスをした。 「……え?な、なんですか、どうしたの?」 「いや、可愛いから」 「……ええ!?あ、お酒の匂いがする。課長酔っ払ってるでしょ。ダメですよ、酔って女の子にキスとか、捕まっちゃいますよ」 「そうだな。好きでもない奴にそんなことしたら捕まるかもな」 「そうです。いけませんよ。今日は特別に許してあげますけど」 「別にいいんだよ。好きな女にキスしたんだから……」  菜箸を持ってつまみ食いをする直前だった彼女は、挟んでいたホタテを鍋に落っことした。 「……い、今なんて?」
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