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01 むかしばなし
兄を殺した。
僕の家にやってきては、犯していく。そんな日々に耐えられなかったのだ。
身体の隅々まで兄に触れられた。的確な刺激により、快楽は感じたものの、兄弟で「そんなこと」をしているということに苦痛を感じていた。
だから、殺したのだ。
しかし、妙なことが起こった。裸になって、兄の首を切り落として風呂場の床の上に置くと、兄がぱちりと目を開け、喋り始めたのである。
「……よくも殺しやがったな」
人間、驚きすぎると声がでないらしい。僕は呆然と兄の淀んだ瞳を見つめた。
「奏太、兄ちゃんのこと、そんなに嫌だったのか?」
「……兄ちゃんが、じゃない。兄ちゃんにされていることが嫌だった」
僕は一番最初にちょん切った兄の陰茎をぷらりと見せつけた。兄は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「あはは。だって、奏太のことしか考えてなかったもん。兄ちゃんのものにしたいって、お前が小さい頃からずっと思ってた」
「それにしても、酷いよ」
「酷いのはどっちだよ、奏太。酒飲ませて眠らせてメッタ刺しにするなんてよ。我が弟ながらよくやるよ」
僕の頭はどうかしてしまったのだろうか。兄の生首が喋るだなんて。まあ、それでもいい。どうせ僕は兄に触れられた時点でもうまともではなくなったのだから。
さて、兄をどうするべきか。身体をバラバラにして運びやすくしてから、山にでも埋めようと思っていたのだが。
犯されても殺してもなお、僕には兄に対するひとかけらの愛情が残っていた。
もうあのごつい手で組みしだかれることはない。それなら生首だけでも残しておいたらいいのではないだろうか。
「兄ちゃん、僕が兄ちゃんを飼ってあげる。今までのお返しだよ」
「ははっ、そっか。それも悪くない」
僕は兄を風呂場に置いたまま、残りの作業にかかった。自分の身体が切り刻まれる様子を見るのはどんな気分なのだろうか。僕は時折ちらりと兄を見たが、彼はニヤニヤと笑っているだけだった。
「……はあ、疲れた」
「奏太。そろそろ休憩か?」
「うん」
「じゃあ、兄ちゃんと喋ろうよ」
僕は兄の髪を掴んで、ぷらぷらと左右に揺らした。
「どんな面白い話してくれるわけ?」
「そうだな……最後に行った家族旅行の話でもするか?」
兄と僕は二つ違いだった。兄が高校三年生のとき、もう行く機会も無いだろうということで、両親と四人で温泉に行ったのである。
「あのときさ、奏太の身体つき見て、やっぱり犯したいなって強く思ったんだ」
「そんなこと考えてたんだ。僕はカニが美味しかったけどね」
「奏太はカニ剥くの上手いもんな。兄ちゃんはああいうの面倒でよ。最初から身だけ出してくれよって思ってた」
あれから十年が経った。両親は病気で相次いで亡くなり、兄が喪主を務めた。実家は元々賃貸だったので解約し、兄も僕も就職していてそれぞれ別の家に暮らしていた。
そして、僕が兄にやられたのは一年前のこと。手足を拘束され、指を突っ込まれた。僕は泣き叫んで抵抗したが、兄の力には敵わなかった。
「奏太は器用だな。人間の身体を崩すのも上手いよ」
「……ネットで調べたんだよ」
「そうだ。あの旅行のとき、父さんが酒すすめてきたよな。奏太は飲まなかった」
「今でもお酒は嫌い」
「俺は好きだぞ。兄弟でも違うもんだな。奏太は母さんに似た」
「顔もそうだよね。僕はどこまでも母さん似だ」
僕と兄は似ていない兄弟だ。僕は二重で女顔なのに対し、兄は彫りが深く雄々しい顔立ちだった。幼い頃からそうだった。
兄を風呂場の床に置き、僕はシャワーを浴びた。そして冷蔵庫からサイダーのペットボトルを取り出して飲んだ。作業はまだまだこれからが本番だ。
「兄ちゃん、とりあえず今日中にバラバラにしちゃうよ」
「そうか。その後どうするんだ?」
「いくつかに分けて、山に埋める。もうさの準備はできているんだ。兄ちゃんを殺そうと決めたのは一ヶ月前だから」
「ああ……そんなに前からか。全く気付かなかったよ」
「大人しく抱かれてたでしょう?」
「もうセックスできないんだな。寂しいよ」
この会話は、僕の脳がおかしくなって生じているものなのか。それならそれでいい。どのみち僕は犯罪者だ。
「奏太。殺されても、お前のこと好きだよ」
「兄ちゃん……」
「キスしてくれよ」
「やだね」
僕は再び兄の身体に刃を入れた。
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