時の歯車

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時の歯車

どこからか時の波が押し寄せ、運命の歯車が動き出した。 「お母さん、最近空襲が多いね」 「そうね」 「大丈夫かしら?」 「大丈夫よ。大日本帝国が負けるわけないでしょ」 「そうだといいけど……」 「美鈴、そういうことは絶対に人前で言ったら駄目よ。みんなこの戦争に勝つと信じているから、絶対駄目よ」 かすかな灯の中で 「美鈴さん本当に結婚してくれるの?」 「もう、何回も言わさせないで下さい、恥ずかしいから」 「ありがとう」 「明さんそういえば、少し痩せてスマートになったでしょ」 「う~ん、前よりふくよかかな」 「ええ、もう、そんなこと言ったら結婚してあげない」 「ああ、嘘に決まっているよ」 「でも、少しスマートにならないといけないな」 「大丈夫だよ。それ以上スマートになる必要はないよ。だって、子供を10人つくってほしいからね。安産型がいいだろ。スマートだと大変だしね」 「本当ですか?」 「ああ」 「でも、明さんスマートな女性が通ったら、目線がいくの気づいてるのよ」 「いや……そんなことないよ。美鈴さんも十分スマートだよ」 「本当ですか?でも悩んでいるの」 「あんなにスマートになれたらなって」 「明さん……」 「どうしたの?」 「スマートになれたら、褒めてくれる?」 「もちろんさ。今よりもっときれいかもね」 「美鈴さん‥‥」 「どうしました?」 「赤紙がきた……」 「赤紙とはどういう意味ですか?」 「赤紙も知らないのか?召集令状だよ。戦場にて活躍してきなさい。簡単にいうとそう意味だよ」 「え、戦争に参加するのですか?」 「ああ、簡単にいうとそのような事だ」 「ええ、駄目です」 「馬鹿、人前で言うなと言ったろ。誰が聞いているかわからないからな」 「はい」 「大丈夫だよ。戦場で活躍して必ず帰ってくるよ……」 「はい。待っています。本当に待っています」 「一週間後に出征する」 「戦争に行くということですね?」 「そうだよ」 「その前の日に婚約旅行の広場で会って話しませんか?」 「わかった」 出征の前日 「美鈴さん」 「明さん」 「遅かったじゃないか」 「ごめんなさい。遅くなって」 「でも、明さんが早すぎるからでしょ」 「まあ、自転車できたからな」 「明さん、戦争は長くなりそうですか?」 「早く終わるさ‥‥‥」 「そうなんですね。母から疎開しないといけないよと言われて、不安です」 「大丈夫だよ」 「もし………」 「明さん、どうしました?」 「ここで会おう。約束だよ。必ずだよ」 「わかりました……」 「ここで会ってさ、結婚式をあげようと言ったよね。年は関係ないよ」 「はい」 「必ずだよ」 「わかりました」 「明さん、私の事をどう思っていますか?」 「さっき言ったろ。結婚しよう」 「じゃあ、美鈴さんは?」 「もちろんです」 「ここの広場でさ、僕と美鈴さんとの子供達といっしょに遊びたいな」 「いいですね」 「必ずその日がくるよ」 「だから必ずだよ」 「はい」 「今日は温かいしここで寝転んで、ふたりで過ごそう」 「はい」 「明さん、必ず元気で帰って来てください」 「美鈴さんは慌て者だから怪我をしないようにね」 「はい」 「見送りはここでいいから」 「わかりました」 約束の場所で会おう
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