特攻基地にて

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特攻基地にて

 明は事情により、九州の基地により、特別特攻隊へ志願した。特別攻撃隊とは、戦闘機に爆弾を詰めて、敵国の空母へ体当たり攻撃するという、決して生きてかえれないものであった。  明は生きて帰って、約束の場所で結婚するという約束をしていたが、やむなく志願せざる得なかったのだ。  一方で、美鈴は戦火の拡大により、地方へ疎開したのである。 お互いは手紙で自らの気持ちを交換し合った。 吉田 明 様 お元気にされていますか 私は元気もりもりです 明さんお腹はすいていませんか 私のお弁当を送りたいです でも、そういう訳にはいけませんね いつも明さんの事を考えています できることなら自転車で基地まで行って お会いしたいくらいです 私はけが無く食欲もありますよ 必ず生きてかえってきてください 届くことを信じています 藤井美鈴 明は美鈴を想う 美鈴さんのお弁当が食べたいよ オレンジジュースといっしょにね 可愛いよな オレンジジュースと一緒に普通は食べないだろう…… 九州の基地まで自転車でこれる訳がないだろう…… 今頃どうしているかな 元気にしているかな そういえば、スマートになると気にしていたけど 十分スマートだよ 言い過ぎたな  現実は待ってくれない。基地で激しい訓練が行われていた。 「よし、訓練の時間だ。おい、吉田しっかりしろ。何してんだ」 バシ 「申し訳ありません」  基地では、近くの女学生が交代で特攻兵の身の回りのお世話をしていた。 「吉田さん」 「どうしたの」 「暑くはないですか?」 「ああ、暑いね」 「うちわを持ってきました」 「ありがとう」 「私達が交代で、あおいであげます」 「ありがとう。悪いね。いいのかな?」 「いえ、うれしいです。吉田さん素敵だから」 「そんなことないよ」 「吉田さんは女学生の憧れの人です」 「ありがとう。そう言われると恥ずかしいよ」 「困ったら何でも言ってください」 「じゃあ、この下着を洗ってもらえるかな?」 「キャーいいですよ」 「私がします」 「いえ私よ」 「じゃあ、もう一人の子は肩を叩いてもらえないかな?疲れていてね」 「あ、やっぱり肩を叩きます」 「いえ、私がします」 「じゃあ、交代でいいかな?」 「はい」  明は美鈴に手紙を書いた。 藤井 美鈴 様 こんにちは 元気にしていますか 俺も元気もりもりです 美鈴さんの事は忘れたことはありません 知覧は暑い日が続いています でも、いいこともあります 基地の近くの女学校の女学生が身の回りの世話をしてくれています なかには可愛い子もいますよ こういうことを書いたら以前みたいに怒るかな 吉田 明  そう書いて、明は後悔した。 本当に怒るかもな 美鈴さんの事だから 消したほうがよかったな う~ん、愛嬌でいいか その日の夜、明は美鈴の事を想った。 夜空を眺めていると美鈴さんを思い出すな あの星がふたりの星だね そう言ったよな 今は一人の星じゃないか 美鈴さんがいないと二人の星になれないよ 三日月のままじゃないか 今日はどうかしているな こんなにセンチになって 会いたい あの場所で会えるか ごめんな、美鈴さん 俺から言ってて もう帰れないんだよ せめて心だけでも帰る 約束するよ 8月12日に出撃が決まった でも、必ず広場で会おう……
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